「ねえ、澄香。今度の休み、暇でしょ。」 いつものように親友の前島翔子が風祭澄香を遊びに誘う。2人は同じ大学の同級生なのだが、遊び慣れている翔子は澄香の知らないさまざまな世界を知っている。翔子と一緒だと、遊びの話題に事欠かない。 「んー。いいよ。暇だから。」 最初のうちは翔子に振り回されてばかりの澄香だったが、最近ではかなり慣れてきて、抵抗なく翔子に付き合えるようになってきた。 「じゃあ、決まり。遊びに行こう!」 年頃の女2人。男がいないと寂しいところであるが、澄香にとっては男の前で猫をかぶっているよりも、翔子と2人で羽目を外した方が心が休まるのだ。 「遊びに行くのは良いけど、今回は何なの?」 澄香の問いに、翔子はいたずらっぽい笑みを浮かべる。 「女王様よ。今回は澄香を女王様にしてあげる。」 「女王様?」 澄香は一瞬翔子の言った意味がわからなかった。翔子に比べてまともに生きてきた澄香は、こういった怪しい世界に関しては知らないことがまだまだ多いのだ。 「そうよ。知らないの?」 翔子がさも当然という感じでうなずく。 「女王様ってエジプトのクレオパトラみたいなの?」 「まあ、そうかなあ…。」 「素敵なドレスで着飾って、身の回りの仕事はみんなお手伝いさんがやってくれるのよね。」 「まあ、そういうやり方をする人もいるかな…。」 目を輝かせて聞いてくる澄香に、翔子は違和感を感じていた。澄香は『女王様』を誤解しているのではないだろうかと。そして、翔子の心配は的中してしまうのだった。 休みの日。指定した待ち合わせ場所は、繁華街の裏通りに位置する雑居ビルの前だった。 「お待たせ、澄香。」 間もなく翔子が現われた。翔子は相変わらずのギャルスタイル。季節がらアニマル柄のコートに身を包んでいるので着ている服装こそわからないが、ミニ丈のコートから見せつけるように出ている太ももには網タイツ。足元はロングブーツできめて、これっきり濃い化粧。誰が見ても完全なギャルスタイルだ。 「さあ、中に行こうよ。着替えも用意しないといけないし。」 翔子の後に続いて澄香は雑居ビルの中に入っていった。 雑居ビルの一室が目的の場所だった。ゴムや革の匂いのする薄暗い空間である。『女王様』からヨーロッパのお城みたいな場所を想像していた澄香は、期待外れだった。 「いらっしゃい。あ、翔子ちゃんのお友達?」 1人の女性が出てきて案内してくれる。彼女はまだ20代だろう。かなり若い感じだ。だがその身につけている服の豪華さが、水商売か何かで荒稼ぎをしているような印象を与えている。 「風祭澄香です。」 澄香が軽く会釈をする。 「今回はバイトじゃなくて、翔子ちゃんと一緒にお客様として来たのよね。うちは紹介を受けた女性は無料だから、安心してね。」 澄香はそれを聞いて安心した。翔子の知っている世界には怪しげな世界もあり、法外な値段を要求される可能性もあるからだ。 「じゃあ、さっそく準備しましょう。こちらへいらっしゃい。」 案内された部屋に、澄香は自分の家にある靴箱の臭いを重ねた。皮革とゴムの臭いが入り混じった微妙な臭いだ。そして、目の前に並べられた衣装を見て、澄香は息を飲んだ。全ての衣装が革や光沢のある素材でできた露出度の高いボディコンスタイルなのだ。 「ちょっと、翔子。何これ?『女王様』っていうから、もっと素敵なドレスを想像していたのに。」 澄香が翔子に耳打ちする。 「そういう衣装もあることはあるけど、基本はこういうのが普通だよ。それに、ドレスを着るにしても、下にこれを着ておいたほうがいいよ。奴隷も喜ぶし。」 「奴隷?」 「うん。女王様に仕える男の人。」 「ふーん。」 「それより澄香。さっさと衣装決めないと。最初だから、おとなしくこんなので良いんじゃない?」 翔子が薦めたのは、黒い革のドレス。ドレスといってもスカート付き水着のようなもので、露出度は高いが大事な場所を見られる心配はない。とはいえ、このような服装を着たことのない澄香にとってはかなりの抵抗がある。渋る澄香だったが、案内の女性の薦めもあり、この衣装を借りる事にした。 「どう?似合う?」 着替え終わった澄香が尋ねる。 「なんかすごく恥ずかしいよ。」 「平気だってばそのくらい。あたしなんか、ほら、見てよ!」 コートを脱いだ翔子が着ていたのは、真っ赤なエナメル製のビキニの水着だった。 「すごい、翔子…。」 思わず澄香が目を丸くする。 「それより澄香、早く行こう。奴隷の男が待ってるみたいだよ。」 「わかった。」 「とりあえずプレイを始めるまではコートだけでも着ておいたほうがいいんじゃない?」 言われるままに澄香は従った。 「じゃあ、行こうか。」 澄香達が入り口のフロアに戻ると、そこには見た目まじめそうな男がいた。彼は30代くらい。スーツに身を固め、いけてるサラリーマン風だ。 「お待たせ。」 翔子が彼らに挨拶する。翔子にしては珍しくまともな知り合いのようだ。澄香は彼を見て少し安心した。 「じゃあ、二時間のコースになります。場所は401号室になります。ごゆっくりお楽しみください。」 受付の女性はそう言って澄香たちを送り出した。 「ねえ、翔子。なんかあたしの思っていたイメージと全然違うんだけど、一体これから何するの?」 指定された場所へ向かう途中、男に聞こえないように澄香は小声で翔子に尋ねた。 「言ったじゃん。女王様プレイだよ。もしかして、澄香、女王様も知らないなんてことないよね。」 「もしかしなくても知らないかも。」 「もう、澄香ったら19年間何して生きてたの?女王様ってのは、奴隷男をムチでたたいたり、溶けたロウを垂らしたりして、いじめて遊ぶものよ。話くらいは聞いたことあるでしょ?」 翔子に言われて澄香は首を横に振る。 「ええ!?聞いたこともないの?しょうがないなあ。」 「普通の人は知らないって。」 「わかった、大丈夫よ。あたしの言う通りにしてれば、ね。」 やがて3人は指定の401号室に到着した。部屋の中はムチやらロウソクやら怪しいものであふれていた。まずは簡単に自己紹介を済ませる。続いてプレイ内容の確認。とは言っても業界用語を知らない澄香にとっては、何が彼の希望するプレイなのか想像すらできなかった。 「じゃあ、始めましょうか?」 翔子がコートを脱ぎ捨てる。あらわになる翔子の真っ赤なビキニのエナメル水着。足元も網タイツに真っ赤な膝上のエナメルロングブーツ。ヒールの高さが10cmほどあるのに、ヒールの先端は直径数ミリしかない。同性の澄香が見ても目のやり場に困るほどだ。 澄香も真似してコートを脱ぐ。澄香は黒革のドレス。ドレスといってもワンピース水着にパレオのように短いスカートがついただけである。足元は自前のブーツ。黒革の膝丈で、ヒールの高さも5cmほど。衣装と一緒に靴も借りることができたのだが、あまり高いヒールや細いヒールは歩きにくいので遠慮したのだ。 澄香と翔子がコートを脱ぐと、彼は土下座をし、額を床にこするつける。 「翔子女王様、澄香女王様!本日は私のような卑しい奴隷のためにお時間をいただきありがとうございます。女王様の思うままに私を調教して下さい。お願いします。」 突然のことに驚く澄香。もう何を言って良いのかわからない。すかさず翔子がフォローをいれる。 「わかったわ。今日はたーっぷりかわいがってあげる。」 翔子はブーツのつま先を奴隷の頭の上に乗せて、頭をなでた。そして、澄香に合図をする。澄香も翔子の真似をして、ブーツのつま先で彼の頭をなでた。外を歩いて汚れた靴で他人の頭をなでるのだから勇気のいることだったが、やってみれば意外とあっけなかった。 「まずは、お前は奴隷なんだから、服を着ているのは変じゃない?」 翔子が言う。 「申し訳ありません。」 彼は頭を上げると着ているものを脱ぎ出した。上着を脱ぎ、シャツも脱ぎ、靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、ズボンを脱ぎ、ついには一糸まとわぬ体となった。 恋人関係まで進んだことのない澄香は、目の前で成人男性が裸になるのを見るのが初めてなのでうろたえた。 「大丈夫。私達は脱がなくていいから。」 翔子が小さな声で耳打ちする。 全裸になった彼は、再び土下座した。 「先ほどはとんだ失礼をいたしまして申し訳ありません。どうかこの礼儀のなっていない奴隷を調教して下さい。」 「わかったわ。じゃあ、まずムチで礼儀を教えるやるわ。2人がかりで教えてやるから、しっかり理解するのよ。」 翔子は壁にかけてあるムチをとると、彼の背中に向けて振り下ろした。 ビシッ! 空気を切る音がして、ムチが彼の背中に炸裂する。 「うっ。」 彼が痛さのあまりうめき声をあげる。 「まだまだ、調教はこれからよ。」 翔子が次々とムチを振り下ろす。 ビシッ!ビシッ!ビシッ! ムチの打たれる音が部屋の中に響き、彼の背中に赤い筋が刻み込まれていく。そのたびに痛みでうめく彼の声も部屋中に響き渡った。 「澄香もやってみなよ。」 少ししてから翔子は澄香にムチを手渡した。 「このムチは先端が分かれていて、力が分散されるから音はすごいけどそれほど痛くないから平気だよ。」 翔子が澄香にムチの握り方を教える。 「そう、そう。こうやって。あとは、こう、振り下ろす!」 ピシッ! ムチが彼の背中に打ち据えられる。初めて男の人にムチを打つ経験だったが、意外と抵抗はなかった。 「あとは、同じように。こうやって振り下ろす!」 ピシッ! 「もう一人でできるね。」 ピシッ! 「自分の体に当たらないように気をつけて。」 澄香がムチを打つ音が部屋の中に鳴り響いた。ムチを打つ音と、彼のうめき声だけが部屋の中に響き渡った。澄香がムチを打つたびに、彼の背中は赤く腫れあがっていった。彼の背中が傷ついていくのを見て、澄香は女王様としての自分の立場にすっかり酔いしれていた。 どのくらい時間が経っただろうか。さすがに澄香もムチを振るのに疲れてきた。ムチを打つ澄香にとっては疲れるだけだが、打たれる男の方はおそらくもう耐えられる限界だろう。 「じゃあ、そろそろ次のプレイにいってみようか。」 翔子が口を挟んだので、澄香はムチを打つ手を止めた。 「翔子女王様、澄香女王様!愛のムチをいただき、ありがとうございます。」 彼が再び土下座してお礼を述べた。散々痛めつけた相手から礼を言われるのだから、慣れない澄香は戸惑ってしまう。 「少しは礼儀が身についたかしら?じゃあ、次はロウソクよ。お前の醜い体を、ロウソクで飾り立ててやるわ。」 翔子がロウソクを二本取り出すと、火をつけた。そのうちの1本を澄香に渡す。 「美しくしてあげる。」 翔子が溶けたロウを男の背中に垂らす。さんざんムチで痛めつけられた背中に溶けた熱いロウを垂らされるのだから、彼は痛みと熱さに苦しみもだえる。丈夫で強そうに見える男が女2人によっていとも簡単に苦しめられているという状況に、澄香は何とも言えない気持ちの高ぶりを感じていた。 「澄香もやりなよ。」 翔子がロウソクの扱い方を指導する。 「そう、そう。こうやって、自分の手にかからないように気をつけてね。熱いから。」 澄香の手をとり、実演指導をする。 「こうやって少しずつ垂らしていくの。一度にいっぱいだと危ないから。それから、ロウが炎を伝わらないように気をつけて。このロウソクは普通のより低温で溶けるようにはできているけど、火に近い所は熱いから。」 翔子の実技指導により、澄香のロウソクさばきもなんとかさまになってきた。慣れてきたところで、男を仰向けに寝させる。 「じゃあ、これから2人がかりでいくよ。」 翔子と澄香の2人は、男の胸や腹、局所など大事な場所に順番にロウを垂らしていく。ロウが落ちるたびに苦しむ男。だが、その苦しみを知らない澄香にとっては、苦しむ男の姿が大袈裟に見えておかしくてたまらなかった。 ロウソクがだいぶ短くなった頃、男の体にはロウが痛々しくこびりついていた。 「あはは。お前の醜い身体がきれいになったわ。嬉しいでしょ。」 翔子がロウソクの炎を吹き消した。澄香もまねをした。 「醜い男に生まれたことを恥じることね。私達は生まれた時からこんなにきれいなのに、お前はこれだけロウで飾っても私達より醜いのよ。ロウで飾ってやらなければどれだけ醜いのかしらね。」 「翔子女王様、澄香女王様!私の体をきれいに飾っていただきありがとうございます。」 男は再び土下座をして、頭を床にこすりつけた。 「お前はよくがんばったから、ご褒美をやるわ。」 翔子は椅子を持ってくると、男の前に座った。澄香も真似をして、椅子に座る。 「ご褒美として、お前には私の足を舐めることを許すわ。」 翔子がブーツを男の顔先につきだす。「ご褒美」という言葉に不安を感じた澄香が、無言で翔子の肩を叩く。 「大丈夫よ、澄香。」 翔子が振り向いて答える。 「いやなら別にやらなくてもいいし、それに、ブーツを舐めさせるだけだよ。直接足を舐められるわけじゃないし。」 それを聞いて澄香は少し安心した。 「じゃあ、お前はひざまずいて足をお舐め!」 翔子が言うと、男は恐る恐る顔をあげ、うやうやしく翔子のブーツを手に持つと、ブーツの表面を舐めはじめた。 ぴちゃぴちゃという彼がブーツを舐めまわす音が静かな部屋に響いた。 「この人はね、」 舐めさせている間に翔子が澄香に話しかける。 「女のブーツが好きなんだって。ブーツを舐めたり、ブーツで踏まれたりするのがすごく嬉しいの。だから、ご褒美として足を舐めることが許されるまで、ムチにもロウソクにも耐えるのよ。」 「へー。なんか信じられない。」 「まあ、人の好みはいろいろだからね。ただ、あたしはこれをやると楽しいし、あっちも嬉しいわけよ。お互いの要求がかみ合っているわけから、世の中ってうまくできていると思わない?」 「うーん、そうかな。」 「まあ、とにかく澄香も舐めさせてあげなよ。」 「うん、わかった。」 男に目をやると、彼は翔子の右足のブーツの表面を舐め終わったところだった。 「きれいになったわ。じゃあ、次は左足ね。」 翔子に言われて、彼は左足のブーツも舐め始めた。またぴちゃぴちゃと彼がブーツを舐めまわす音だけが響いた。 翔子のブーツの表面をひととおり舐め終わると、男は顔を上げた。 「思ったより早かったわね。きれいになったの?」 翔子が尋ねる。 「はい。精一杯きれいにさせていただきました。」 彼が答える。翔子は自分のブーツを眺めながら言った。 「じゃあ、次は澄香の分も舐めてきれいにするのよ。」 「はい。」 男は澄香に向き直った。 「失礼します。」 彼は、ブーツに包まれた澄香の足をうやうやしく持ち上げると、顔を近づけて舐め始めた。プレイ用に履き替えた翔子と違って、澄香のブーツは自前である。家を出てからずっと外を歩いてきたため、汚れているはずである。その汚れたブーツを彼は何のためらいもなく舐めているのだ。 舐めさせる立場と、舐める立場。あまりの違いに澄香は何とも言えない優越感に浸っていた。ブーツを履くことができる女に生まれてよかった。心の底からそう思った。 「ちゃんと舐めて、きれいにしてよ。」 自分でも信じられないような冷たい言葉が自然と口から出てきた。 やがて、彼は澄香が履いている左右のブーツの表面をすべて舐め終わった。ブーツは買ったばかりのように汚れ一つなく、ぴかぴかに磨き上げられたかのようだ。 「表面だけじゃなく、靴の裏も舐めてよ。」 何も知らない澄香は、勝手に残酷な命令を下した。彼はためらいの表情を浮かべ、助けを求めるように翔子を見上げた。 「女王様の命令は、絶対よ。従いなさい。」 翔子に言われて、彼は澄香のブーツの靴底を舐め始めた。 「ねえ澄香、それ、家から履いて来たやつよね。」 男が舐めている間に翔子が聞いてくる。 「うん。」 澄香が答える。 「来る途中、変なもの踏んだりしなかった?」 「えー、変なのって?」 「例えば、犬の糞とか。」 「そんなのわかんないよ。いちいち足元気にしてないもん。なんでそんなこと聞くの?」 「靴の裏を舐めさせるのって気をつけないといけないからね。あたしみたいにプレイ用のブーツ履いていればたいして汚れていないから平気だけど、澄香のって家から履いてきたやつじゃん。舐めさせると危険な毒のある物も踏んでいるかもしれないなって心配しただけ。」 淡々と翔子がしゃべっている間も、男は澄香のブーツの靴底を舐め続ける。 「ええ、どうしよぉ。」 澄香が青くなる。 「あたし、何も知らなくて命令しちゃったけど、どうしよう。靴の裏ってそんなに危険だったなんて。」 「平気、平気。気にしなくていいよ。せいぜいお腹こわして入院するくらいだから。それに、今日で最後にしちゃえばいいのよ。澄香、例の光線銃もってるよね。」 「うん。でも、まさか、翔子…。」 「証拠隠滅よ。もし、こいつが入院して、その原因が澄香だと分かられたら嫌でしょ。だからやるのよ。もうここまでやっちゃったんだから引き返せないよ。」 「分かった。」 「じゃあ、次のプレイはお楽しみ、踏みつけ大会ね。」 自分の知らない所で運命を勝手に決められた男は、何も知らされないままブーツの靴底を舐め続けていた。(つづく) |