小さくされた彼は必死で逃げていた。逃げるしか彼の助かる道はなかった。その証拠に仲間達は全員、彼女達の巨大なブーツに踏み潰されてしまった。 「はあ、はあ。ここまで来れば大丈夫だろう。」 自分の背丈の10倍近くある草の影に隠れて彼はほっと一息ついた。 彼らは仲間達と一緒に6人で繁華街へと遊びに来ていた。そこで知り合ったのは、2人の女性。名前は風祭澄香と前島翔子といった。2人とも19歳の大学生。ナンパ目的で声をかけたら、いとも簡単について来たのだ。 彼らは彼女達を精一杯もてなした。理由は言うまでもない。少女漫画のように、男が女に親切にするのが当たり前だ、などと考えていたわけではない。親切にしたからには、性的欲求を満たすという見返りを期待してのことであった。 彼女達に食事をおごり、欲しい物もプレゼントして、さあいよいよこれからだ、というところで、彼らの予定が狂った。彼女達がホテルに行くのを渋りはじめたのだ。だが、ここで逃がしては、せっかくおごって貢いだものが無駄になってしまう。少々強引ではあったが、彼らは澄香と翔子を取り囲み…。 そこから先、彼らの記憶はとぎれていた。確か澄香が銃を取り出し、彼らに向けて光線を発射したはずだ。 そして、気づいた時には彼らは100分の1に縮められていた。 「どう?100分の1のこびとにされた気分は?」 巨大な翔子が声をかける。翔子はバッチリ厚化粧、髪の毛も染めて、人目を引く派手な衣装に茶色いロングブーツ。どこから見てもイケイケギャルそのものだ。 「強引にエッチに誘おうとするからよ。」 冷めた口調で言ったのは澄香。澄香の方はナチュラルメークで、髪の毛も黒いまま。お嬢様系か癒し系のつもりなのだろうが、ミニスカートに黒いロングブーツのせいで、ただの地味な女になってしまっている。 「さんざんおごらせた後だから、あたしはエッチしてからでも良かったんだけど、澄香がいやだって言うから、ね。」 翔子が意地の悪い笑みを浮かべる。彼らはその笑いに不吉なものを感じた。 「俺達をどうするつもりだ?」 こびとのうちの一人が尋ねた。 「うしろ見ればわかるよ。」 翔子に言われて振り返るこびとたち。彼らの目に飛びこんできたのは、黒光りする巨大な2本の柱。すなわち、澄香のブーツであった。 「女の子を強引にエッチしようとする人は、こうなるのよ!」 澄香は右足を持ち上げると、勢いよくこびとの1人を踏み潰した。ぷちっとかすかな音を立て、彼はそのはかない生涯を閉じた。 その様子を見ていたこびと達は恐怖に震えた。仲間がいた場所には、黒光りする巨大なロングブーツがそびえたち、靴底と地面のわずかな隙間からは、彼の生きていた証である赤い血液が流れ出していた。 「あんたたちは、全員こうなるの。」 翔子が面白そうに言う。 「強引にエッチに誘った罰よ。」 冷たく澄香が言い放つ。 「さて、あたしは誰を踏み潰そうかな〜。」 翔子がこびと達を一人一人見下ろす。その時、彼らのリーダーが叫んだ。 「みんな、散れ!ばらばらに逃げるんだ。どこか小さな穴とかに隠れれば大丈夫だ!」 この一言で彼らは我に返り、一斉に駆け出した。 「あは、面白い。今日のこびとは元気で踏み潰し甲斐がありそう。」 翔子がつぶやいた。 彼らは必死で逃げた。逃げる時に全員ばらばらになったが、まとまって行動するより別行動の方が見つかりにくい。 「ここまで来れば大丈夫だろう。」 こびと達のうち一人は、自分の背丈の10倍近くある草の影に隠れてほっと一息ついた。 一息ついた彼は、後ろを振り返った。すると、一人逃げ遅れた仲間が巨大女性ににらまれて動けないでいる。 「早く逃げろ!」 彼は心の中でそう祈った。だが、助けに行く事はできなかった。 「まずは、あんたからね。」 一人逃げ遅れたこびとに向かって翔子が言う。仲間たちは近くの草むらや石の陰に隠れたのだが、彼一人だけ逃げ遅れて、まだ翔子と澄香の目の前をうろついていた。 翔子がブーツを持ち上げると、黒い影が彼の頭上に迫る。やがてその影は彼の頭を捕らえ、その直後小さな彼の数十万倍の重量がのしかかった。当然そんな重さに彼の体が持ちこたえられるはずもなく、いとも簡単に翔子のブーツはしっかりと地面を踏みしめた。 当然一足先に逃げ出した仲間たちの目にも、その残酷な光景が飛びこんできた。見つかったら無残にも踏み潰される。その恐怖が彼らを支配し、彼らは見つからないように、さらに草むらの奥へと身を隠した。 「あたしはこっちに行った奴らをやっつけるから、澄香はそっちお願い!」 翔子が指示を出す。 「言われなくてもやってるよ。」 澄香は、逃げるこびと達の後を、ゆっくりと追いはじめた。澄香の獲物は2人の男。そのうちの一人に澄香は狙いを定めた。 必死で逃げる彼は、目の前に虫たちの集まっている場所を見つけた。そこには、捨てられた弁当があり、それを目当てに虫たちが集まっていた。目の前にこれだけ豪華な餌があれば、彼のようなちっぽけな存在はどの虫からも相手にされる事はないはずだ。それに、さすがに彼女たちも食べ物や虫まで踏んだりはしないだろう。つまり、弁当箱の陰に隠れれば安全である。 しかし、彼のもくろみは外れた。澄香は落ちている食べ物を踏むことなど何とも思っていなかった。 「そんな所に隠れても無駄よ。」 冷たく言い放つと、澄香は自慢のブーツで落ちている弁当箱を踏み潰す。 バキバキッ! 弁当箱の砕け散る音がする。虫たちにとってのお食事会は、突然地獄へと変わった。突然の天敵襲来に、大慌てで逃げ出す虫たち。だが、一部の虫が逃げ遅れ、ご馳走の山に埋もれたまま踏み潰された。 運良く一回目の直撃をまぬがれた彼は、恐怖で動けずにいた。彼女は食べ物を踏むことも、虫を踏むことも、男の生命を奪うことも何とも思っていない。女の子がこんな残酷なことを平気でするという現実に彼はショックを受け、動くことができなかったのだ。 呆然とする彼の頭上に黒い影が迫った。澄香のブーツが次の攻撃を仕掛けてきたのだ。 バキバキッ! 弁当箱の砕け散る音がした。だが、その時すでに彼はブーツに押し潰され、この世の人間ではなくなっていた。 その後も澄香は、何度も何度も虫たちの残骸の混じった弁当箱を踏み潰した。全てが真っ平らにされ、地面と一体化してから澄香はつぶやいた。 「これでいいわ。あとは、もう一人ね。」 踏み潰された残骸に目もくれずに、澄香はもう一人のこびとが逃走した方へと目をやった。 一方の翔子。翔子もまた2人のこびと達をじわじわと追い詰めていた。そのうち一人は草むらの中へと逃げたが、もう一人は石の下にある小さな穴に隠れて翔子をやり過ごそうとしている。 「あはは。そんなんで隠れたつもり?丸見えよ!」 翔子が石の上にブーツをかざす。彼は恐怖のあまり石の下に隠れて縮こまっている。 「安全な場所なんてどこにもないのにね。」 翔子が石の上にゆっくりとブーツを置き、少しづつ力を加えて行く。ブーツにかかる翔子の重さにより、徐々に石が地面にめり込んで行く。このことは、石の下の空間が狭まり、隠れていた彼に危機が迫っていることにほかならなかった。 だが、逃げ出すにはもう遅すぎた。彼にとって巨大な石は、穴の出口を完全にふさいでしまった。そして、そのまま地面をえぐるように彼へと迫ってくる。彼は両手でその石を支えようとしたが、無駄なことだった。次の瞬間、翔子の体重の乗った巨大な石は、何もなかったかのように彼を押し潰したのだった。 「超最高!逃げられないって言ったのに。あはは。」 翔子は彼を押し潰した石を、ブーツでさらにぐりぐりと地面に押しつけた。もう彼の体は地面と石の間ですり潰されていることだろう。 これで翔子の獲物もあと一人となった。 もう一人の翔子の獲物は、草の陰に隠れていたが、すぐに翔子に見つかってしまった。 「隠れても無駄よ!」 翔子がブーツで草を軽く払うと、彼は大慌てで逃げ出した。 「ほら、がんばって逃げてよ。」 彼のすぐ後ろに、翔子は面白半分にブーツを踏み降ろす。踏まれてはたまらないので必死に逃げるこびと。その様子があまりにもこっけいだったので、翔子はもうしばらく彼と遊ぶ事にした。 「ほら、全力で走らないと踏み潰すよ。あはは。」 彼のすぐ後ろにブーツを踏みおろし、恐怖をあおる。死にたくない一心で彼は無我夢中で走った。だが、いくら夢中になったとしても、体がついていかない。ついに限界を感じた彼は、立ち止まってしまった。 「あーあ。残念でした。止まらないで走りつづけたら助けたのに。」 翔子は彼の頭上をブーツで覆った。 「待ってください。お願いです!」 ブーツの下で彼はとっさに叫んだ。 「命だけは助けて下さい。お願いです!助けてくれたら、どんなことだってします。もう二度と強引に女の子を誘ったりしません。欲しいものがあれば、なんだって買ってあげます。」 「何でも買ってくれるの?」 頭上を覆っていたブーツを翔子がどかした。再び彼の目に明るい光が飛び込んでくる。彼は土下座して言った。 「お望みのものなら何でも買って差し上げます。だから、命だけは…。」 翔子は少し考えてから言った。 「わかった、考えてみる。」 この一言に彼は安堵し、力が抜けて座りこんだ。 「ねえ、澄香。こいつ、欲しいものなんだって買ってくれるって。元に戻してあげようよ。」 翔子が澄香に言う。だが澄香は必死に足下を見ていて、翔子の話を聞いていない。 「ちょっとー、澄香、聞いてる?」 翔子が澄香の肩をつかむ。 「あ、ごめん。ちょっとこびと見失っちゃって。」 「なんだ、いいじゃん。いなくなった奴なんて。それより、こいつ、好きなもの何でも買ってくれるって。元に戻してあげようよ。」 「それどころじゃないよ。こびと見失っちゃったんだから。このまま逃げられて、誰かに助けられたらどうしよう。こんな時にもう一人を元に戻している場合じゃないよ。」 「もう、澄香ってドジなんだから。わかった、あたしもいなくなった奴探してあげる。」 翔子が澄香の肩に手を置いた。 「というわけで、あんたはごめんね。仕方ないけどあんたと遊べなくなっちゃった。あんたまで逃がすわけにはいかないし。恨むんなら澄香を恨んで。」 翔子は足下のこびとに向き直ると、再びブーツをかざす。助かると思っていた彼は、突然のことになす術もなく翔子のブーツを見上げるしかなかった。そんな彼の気持ちなど知らない翔子は、まるで石ころでも踏むかのように彼を踏み潰した。哀れな彼は、翔子のブーツの靴底にへばりついた肉のかたまりとなった。翔子が歩くたびに地面に何度も踏み潰され、やがてその残骸すらなくなってしまうだろう。 残るはついに一人になった。彼は草むらの中を奥へ、奥へと進んでいた。とにかく今は先のことなど考えず、彼女達から逃げのびるしかない。生い茂った草の陰に隠れた彼は一息つくと、見つからずに済むことを祈った。だが、彼女達の魔の手は確実に迫っていた。 自分の獲物を処分した翔子は、2人がかりで澄香が逃がした獲物を捕まえようとしていた。 「いい、翔子?草の根かき分けてでも探し出してね。見つかりさえすれば、生きていても死んでいてもいいから。」 2人はブーツで草むらを踏みながら彼を探し始めた。サンダルや普通の靴だったら踏みこむのをはばかるような草むらである。あるいは彼女達がサンダル履きだったらあきらめてくれて彼は助かったかもしれない。だが、彼にとって不幸なことに、そして彼女達に幸運なことに彼女達はブーツを履いていた。すねやふくらはぎに草が当たってもブーツが守ってくれるので平気である。澄香と翔子は草を踏み倒しながら逃げたこびとの行方を追っていた。 そしてついに運命の時がやってきた。翔子のブーツが草をなぎ払うと、こびとの姿が捕らえられた。 「見ーつけた!」 翔子が彼の目の前に足を踏みおろし、逃げ道を断った。 「澄香。いたよ。ここに。」 翔子が澄香を呼び寄せる。2人の巨大な女性に囲まれた彼は、絶望のあまり崩れ落ちた。 「まったくもう。勝手に逃げ出して。迷惑なこびとよね。」 彼の頭上に澄香がブーツをかざす。 「ちょっと待って、澄香。あたしが見つけたんだから、そいつ、あたしのモノよ。」 翔子が待ったをかける。 「何言っているのよ。もともとは私のでしょ。」 「見失った時点でもう早い者勝ちよ。だから、先に見つけたあたしのもの。」 「えー、そんなのずるいよ。だって翔子はもう3人踏み潰したでしょ。あたしはまだ2人よ。」 「あたしにくれないんなら、澄香の手伝いなんてしなかったよ。さっきの奴を元に戻して、欲しいもの買ってもらって、ついでにエッチなことも…。」 足下の彼にとって、これほど惨めな言い争いはない。どちらが自分を踏み潰すかでもめているのだから。だが、この言い争いは彼にとって天の味方かもしれない。この隙に彼はそろりそろりと移動し始めた。 頭上には巨大な澄香のブーツの靴底が覆っている。靴底には仲間を踏み潰した残骸とみられる血痕に泥がこびりついている。彼女が足を踏み降ろせば、自分もこのような変わり果てた姿になってしまう。そうなる前に逃げるしかない。 やがて、彼はブーツの靴底から脱出し、再び大空を拝むことができた。後はできるだけ遠くへ逃げるだけだ。彼は全速力で走り出した。 しかし、彼の運もここまでだった。 「あ、澄香。こびとが逃げ出した!」 翔子が足下に注意を促す。 「本当だ。もう、勝手に逃げ出すなんて、わがままなんだから!」 澄香は、無我夢中で逃げる彼をブーツで踏み潰した。おそらく全速力で走っていた彼は、何が起こったかわからないまま踏み潰されたことだろう。 「あー、ひどい。あたしのものだったのに。」 翔子が不満をぶつける。 「わかった。じゃあ、今度むかつく男見つけたら、翔子が小さくして踏み潰していいから。」 澄香が翔子をなだめる。 「本当?じゃあ、今すぐ行こうよ。じつはさあ、あたしの友達にからんでいる悪い男を前からなんとかしてやりたいなと思っていたのよ。」 翔子が顔を輝かせる。 「ええ!?いますぐ?だって、さっき踏み潰したばかりじゃない。」 驚く澄香。だが、翔子はそんなことは意に介さない。 「踏み潰された奴のことなんかもう忘れたわ。それより早く行こう!」 翔子が澄香を押す。澄香も仕方なく動き出した。 澄香が立ち去った後のブーツの靴跡には、彼女のために親切に尽くした挙げ句に踏み潰された哀れな男の残骸が転がっていた。 |