「ねえ、宅也くん。また二人っきりの熱い夜を過ごしましょ。」 大胆にも女の方から男を誘う。その女の名は前島翔子。ギャル系メイクで、いかにも男遊びが好きそうな感じだ。2人が知り合ったきっかけが翔子からのアタックだったので、エッチに誘うときはいつも翔子から誘っていた。 「ごめん。今日はやめよう。」 男のほう、宅也はせっかくの誘いを断わった。いつもなら喜んでついてくる男の変わりように、翔子は眉をひそめる。 「どうしたの?宅也君。もしかして、浮気?」 女の勘は鋭い。図星を突かれた宅也は、素直にうなずいた。 「ごめん。好きな人ができたんだ。」 「ええー!ひどい。あたしという女がありながら。どういうつもりよ!」 翔子の声が怒りに震える。 「あたし達何回エッチしたと思ってるの?これだけすれば、将来の約束をしたも同然でしょ。それなのに、ひどいじゃない!」 「すまない。別に君が女として魅力がないわけではないんだ。彼女として付き合うならいまだに翔子ちゃんが一番だと思っている。でも、将来の人生設計を考えると、また理想的な女が変わって来るんだ。勝手な事を言っているのは承知している。俺が一方的に悪いんだから謝るしかない。許してくれ!」 「わかったわよ。」 手をついて謝る宅也に、翔子はため息をついた。 「じゃあ、これからはただの友達。お互い干渉しちゃダメってことね。」 さすがに男遊びに慣れているだけあって、翔子はこの辺の切り替えが早い。 「でも、最後に質問。あたしより将来の人生設計を考えられる相手って誰なの?」 「それは…。」 珍しく宅也がくちごもる。 「絶対に邪魔しないわよ。新しい門出を祝福したいだけ。一方的に振ったんだから、そのくらい聞かせてくれても良いでしょ。それとも、言えない相手なの?」 「わかった、言うよ。相手は、この前君が紹介してくれた、連れの女だ。」 宅也は沈痛の面持ちで白状した。 「ええ、澄香が!?許せない!澄香ってば、親友のふりしてあたしの男奪い取るなんて。今日を限りに絶交してやる!」 「違うんだ。落ち着いて聞いてくれ。アタックしたのは俺の方からだし、まだ返事ももらってない。彼女は何も悪くはないんだ。だから、彼女を恨まないで欲しい。」 「宅也くんの頼みでも、いくらなんでもこればっかりは許せない!親友の男を奪い取るなんて。」 怒り爆発の翔子は、もはや宅也の言う事に聞く耳を持たなかった。 次の日の朝、翔子は親友の風祭澄香と大学の構内で出会った。ギャル系の遊び人スタイルの翔子だが、昼間はただの大学生。もっとも、毎晩のように遊んでいても入れる大学なので、そのレベルはたかが知れているが。 澄香は大学に入ってからの親友だ。翔子とは違い、ギャルっぽさは感じさせない、どちらかと言うとお嬢様系の雰囲気を持っている。見た目も性格も全然違う2人だが、どういうわけか不思議と気が合うのだ。 「おはよう、翔子。どうしたの?なんかすごく疲れているみたいだけど、大丈夫?少し夜遊び控えたら?」 澄香の方から声をかける。だが、翔子の方は宅也を奪われた怒りがおさまらない。男がからむと、女の友情は簡単にひびが入る。 「ふん。澄香こそ、毎日男遊びで疲れているんじゃない?」 「!?」 いつもと違う翔子の態度に、澄香は目を丸くする。だが昨夜、翔子と宅也の間で何があったのか知らない澄香は、びっくりして何も言えなくなった。 「なるほど、そう言うことね。ごめんね、翔子。気づかなくって。」 昼休み。翔子から事情を聞いて、澄香はようやく翔子に謝った。 「まったく、澄香って平気で友達の男を奪い取るんだから。超むかつくー!」 「違うってば。あたしは最初からこの話、断わるつもりだったよ。あたしが翔子の彼氏を横取りするわけないじゃない。」 「あやしい。澄香ならやりそう。」 「ひどい、翔子ったら。」 「あはは。冗談だって。」 すねていた翔子も、ようやくいつもの調子を取り戻してきた。 「でもね、翔子。宅也君は翔子の彼氏じゃなくても断わったと思うな。だって、一方的に結婚は何歳が良いかとか、エッチは月何回がいいかとか、子どもは何人欲しいとか、露骨にそんな話ばかりするんだよ。」 「それって、結婚を前提とした将来設計じゃない?むかつくなあ、あたしには一度もそんな話、しなかったくせに。」 一旦は落ち着いた翔子だが、再び宅也に対する怒りがよみがえってきた。 「まあ、どっちみち今度会った時に断わるつもりだから安心して、翔子。」 「今度って、いつ会うの?」 翔子が澄香に問いただす。この時翔子の頭の中にはすでに恐ろしい計画が立てられていた。 「次の日曜日よ。」 翔子のたくらみを知らない澄香は何も考えずに答える。 「ねえ、澄香。あたしもついていっていい?」 「え?どうするつもりよ。まさかあたしが翔子に内緒でこっそり宅也君と付き合うとでも思っているの?」 「違うわよ。実はね、宅也君ってすぐキレて暴力を振るうの。だから澄香が心配で…。」 もちろんそんなのは嘘である。しかし翔子は、澄香をだましてでも宅也と会って、彼を陥れなくては気が済まなかった。 「本当?やだ、怖い。大丈夫かしら?」 「大丈夫よ、あたしがついていれば。彼が暴れそうになったら助けてあげるから、ね。」 「お願い。じゃあ、今度一緒について来てね。」 こうして翔子は、自分を捨てて澄香を選ぼうとした男に対する報復への道を歩き出した。 日曜日、翔子は澄香と一緒に宅也との待ち合わせの場所へやってきた。 「じゃあ、澄香。あたしは隠れて見ているから。しっかりやるのよ。」 「わかった。」 「それから、あたしが合図したらすぐに彼を小さくするのよ。いい?乱暴されたくなければ、迷っちゃダメ。彼は突然キレるんだからね。」 「うん。翔子、忘れずに合図お願いね。」 宅也の本性を知らない澄香は、翔子の嘘にまんまとだまされ、彼を小さくすることに抵抗がなくなっていた。 「大丈夫!あたしの言う通りにすれば。」 翔子は宅也に見つからないように、物陰へと隠れた。 それから間もなくして宅也が現われた。 「お待たせ。澄香ちゃん!」 宅也は見ため通りの爽やかな笑みを浮かべる。しかし、事前に翔子から嘘を吹きこまれている澄香は警戒の色を隠せない。 「どうしたの、怖い顔しちゃって。二人きりなんだし、リラックスしようよ。」 宅也が優しい声をかける。 「やっぱり、この前、『俺と付き合って欲しい。』と言ったのを気にしているのかい?」 「だって、宅也君には翔子という…。」 「もうあの女のことはどうでも良いんだ。いい男を見たらすぐに飛んでいくような尻軽女は、将来的に不安だ。その点君は、ガードが固いけど、一度ほれた男にはとことん尽くすタイプだ。俺は君のそんなところが素敵だと思う。 すぐに返事できないのなら、今すぐにとは言わないさ。1年でも2年でも君を待つよ。だから、俺の事本気で考えてくれないか?」 彼の巧みな話術にはまり、澄香は翔子の言うことを疑いはじめていた。 「でも、友達の彼氏を横取りするようなこと、あたしには…。」 「彼女のことは忘れてくれ。これは俺とお前との問題だ。」 迷う澄香に彼はダメを押す。澄香は難しい選択を迫られた。 とその時、翔子から合図が上がった。宅也がキレる前兆である。澄香は光線銃を取り出すと、宅也に向けた。 「な、何をするんだ!」 突然銃を向けられて、身の危険を感じた宅也は大声を出した。しかし、この大声が彼の運命を決めた。宅也がキレて大声を出したと思いこんだ澄香は、自己保身のため彼に光線銃を照射して100分の一に縮めた。 「はい、澄香ご苦労さん。」 翔子が澄香の目の前に現われた。 「本当に、翔子の言う通りだったわ。宅也君、突然大声を出すんだもの。びっくりしたわ。」 翔子の顔を見て澄香は安堵の表情を浮かべる。 「ああ、あれ、実はうそ!彼はキレたり暴れたりなんかしないよ。ね、宅也君。」 翔子は小さくなった宅也を拾い上げる。 「突然銃を向けられたら、誰だって大声出すってば。ねっ。」 翔子に言われて宅也はうなずいた。宅也としては何が起きたのかわからず、ただ翔子に合わせてうなずいただけだったが。 「ちょっと、翔子、『うそ』ってどう言うことよ?」 「あはは。澄香ったら、怒らない、怒らない。実はね、こいつがあたしを捨てて澄香を選んだから、その仕返しをしたかっただけ。」 翔子はそう言って宅也の顔を覗きこむ。宅也は、自分を持ち上げている巨大女性が、自分が捨てた昔の彼女だという事に気づき青くなった。 「あたしがいないことを良いことに、さんざん悪口言ってくれたよね。」 翔子は宅也をにらみつける。自分の100倍もある巨大女性に捕まえられたままにらまれて、彼は恐怖のあまり震えあがった。 「ちょっと待ってよ翔子。そしたら、宅也君は何も悪くないってことじゃない。」 「何言ってるのよ。あたしを捨てて澄香を選んだこと自体、充分悪いことじゃない。それに、澄香もどっちみち断わるつもりだったんでしょ。だったら断わる手間が省けてなおさら良いじゃない。」 「でも、何も小さくしなくても…。」 「いい、澄香。これはあたしの報復なんだから、手を出さないでちょうだい。」 「はい。」 翔子の気迫に押されて澄香は引き下がった。澄香が手を引いたことにより、宅也の助かる道は閉ざされた。 宅也は地面に下ろされた。目の前には巨大な4本のブーツがそびえ立っている。言うまでもなく、それらは翔子と澄香のブーツである。 「ねえ、宅也君。このブーツ覚えている?」 翔子が宅也の目の前にブーツを踏み降ろす。翔子の履いているブーツは、茶色の革のロングブーツ。厚底でヒールは15cmくらいある。 「あ、ああ。」 宅也はうなずいた。そのブーツは、翔子にねだられて宅也が買ってあげたものだった。デートの途中立ち寄った靴屋で、『これからこの手のブーツが流行りますよ。』と店員さんに言われて買ったもので、確かにその当時はこのタイプのブーツが大流行していた。翔子にそのブーツを買い与えて、そのまま初エッチをしたのだ。忘れるはずがない。 「このブーツはデートの時しか履いたことないのよ。あなたの最期を飾るのに、こんなにふさわしいものはないと思うな。」 「?」 翔子に言われても、宅也は何を言おうとしているのか理解できなかった。 「あなたに買ってもらった記念のブーツで、あなたを踏み潰してあげる。うれしいでしょ。」 翔子が右足を持ち上げる。宅也の目の前で巨大なブーツが持ち上がり、頭上をその黒い靴底が覆った。ブーツの靴底はまだあまり履きこまれていないため、凸凹がはっきりしていて、かすかに砂汚れがついている。 「!」 身の危険を感じた宅也は逃げ出そうとしたが、とっさのことで足が動かない。 「あたしを捨てた報復よ。さようなら!」 巨大な黒い靴底が彼に襲いかかった。 「うわー!」 彼は大声で叫んだ。だが、それで助かるわけはない。自分の100倍の巨大な元彼女の体重をその小さな体に受け、彼の体はブーツと地面の間で押し潰されて四散した。 「これですっきりしたわ。」 翔子が宅也をぐりぐりと踏みにじる。ブーツの靴底と地面の隙間から彼の内臓や血液が飛び散ったが、翔子は全く気にしていない。 「このブーツ汚れちゃったから、普段履き用にするしかないか。いっぱい履いているうちに汚れも落ちるしね。」 翔子は靴の裏の凸凹に挟まった元恋人を見ながら言う。 「それじゃあ、澄香、待たせたわね。行きましょう。」 宅也のことなどなかったかのように翔子が言う。翔子は気持ちの切り替えが早い。 「ちょっと待ってよ。いくらなんでもフラれたからって踏み潰していたんじゃ、怖くて彼氏になってくれる人いなくなるよ。」 目の前で行なわれた惨劇を、澄香はまだ引きずっている。自分が踏み潰すには問題ないが、目の前で他人が踏み潰すのを見るとなぜかかわいそうに思えてしまう。 「何言っているのよ。あたしを捨てる男のほうが悪いんでしょ。あたしは何人の男とエッチしても平気よ。」 「そう言う問題じゃないでしょ。」 突っ込みを入れる澄香に、翔子は逆に意地悪な質問をする。 「それより本当に澄香、宅也君の誘い断わるつもりだった?」 「本当だってば。もう。」 「わかった、わかった。じゃあ、今日は2人でデートしようか。このブーツを履いた日はデートをすることに決めてあるんだ。だから、今日の相手は澄香ね。」 「ちょっと、あたしはその気ないって。」 「いいから、いいから。」 翔子は澄香をせかすように駆け出した。 ブーツの靴底の凸凹に挟まった元恋人の残骸も、翔子が一日楽しく遊び歩く過程で、地面との間で何度もこすられ踏み散らされ、跡形もなくなってしまうだろう。 自分を捨てた男に対する翔子のささやかな報復であった。 |