某大学の体育会

作:大木奈子

 彼らは某大学の体育会の学生であった。その日は試合終了後の打ち上げの日だった。体育会の例に漏れず、打ち上げの飲み会はし烈を極めた。彼ら二人は飲み過ぎで理性を失いながらも、強靭な体力でふらつきながらも合宿所への帰り道を歩いていた。
 暗い夜道。深夜12時を回ったところだった。閑静な住宅街で人通りは全くと言っていいほどない。彼ら二人がふらつく足取りで歩いていると、前方にひとりの女性が歩いていた。年齢は20歳前後だろうか。長い髪のお嬢さま系の女性だ。おしゃれにうるさいのか、今流行の服に、ミニスカートにブーツを履いていた。
 なぜ彼女はこんな時刻に寂しい道を一人で歩いているのだろうか?そう考えているうちに、彼らは原始の動物的欲求に襲われた。酔いがかなり強かったため、理性でその欲求を押さえることが出来なくなり、彼らは彼女に声をかけた。
「よう!おねーちゃん!こんな時間に一人とは寂しいね。俺達と遊ばない?」
「え、ええ…。」
彼女はあいまいな返事をする。露骨に拒否反応を示さないということは、いけるかもしれない。彼らは勝手にそう判断した。
「俺達さあ、実は体育会なんだよね。強い男は好きだろう。」
「ええ。まあ…。」
いつのまにか3人はしっかり並んで歩いていた。
 この先には木々が生い茂った公園がある。彼女をそこに連れ込めばもはや人目につかない。多少の乱暴をしても大丈夫だろう。彼らはそう考えていた。
「ねーちゃんさあ、名前何てーの?」
「澄香。風祭澄香よ。」
「へ〜!澄香ちゃんね。澄香ちゃんは今何やってるの?OL?それともお水のお仕事?」
「学生よ。平成女子大の。」
「ふーん…。」
平成女子大。無名な大学で知らない人も多いと思うので説明すると、バブル期末期に立てられた女子大で当時は第二次ベビーブームの影響でそこそこのレベルだったが、今じゃほぼ無試験に近い状態で入れる大学である。もちろん彼ら二人は名前すら聞いた事もなかった。
 それでもここはエッチに向けての雰囲気作りが大事だ。
「平成女子大って可愛い子多いんだよね。君みたいに。」
「まあ。」
「ところで俺さあ、もうちょっと澄香ちゃんの話し聞きたいな。少し休んでいかない?」
彼らはたくみに彼女を公園に誘導する。

 やがて程なく彼らのたくらみは成功した。彼ら3人は公園の木々の間を抜ける細道を歩いていた。人目につかない安全な場所に入ったことを確認すると、彼らは行動に移った。
「へっ、へっ、へっ!実は俺達はおまえが誰だろうと関係ないんだよ。
ただ単に俺達の欲求を満たす道具になってくれればいいんだよ。」
彼らは彼女を芝生の上に押し倒す。
「きゃあ、やめてください。」
彼女は抵抗するが、屈強な体育会の男二人に勝てるわけはない。
「こんな夜更けにそんな格好で街を歩いているってことは、本当はおまえもやりたいんだろ?俺達みたいなたくましい男と関係をもてるなんて幸せだよな!」
彼らはそう言って下品に笑う。
「さあ、あきらめて覚悟しな!」
 彼女を脱がそうとしたとき、強い光が彼らの目を覆った。眩しさの中にも、その光が彼女の手にある銃のようなものから発せられていることに彼らは気づいていた。
 そして彼らは意識を失った。

 彼らが目覚めたとき、周囲の風景は全く別のものに変わっていた。
「あれ、ここは?」
彼らがつぶやいたとき、突然目の前に巨大な黒光りする柱が降りてきた。彼らはあわてて後ずさりする。そして上を見上げた彼らは、その柱が巨大な女性のロングブーツだったことに気づいた。
「うふふ。気がついた?」
巨大な女性が彼らを見下ろす。その女性こそ、彼らが今まさに襲いかかろうとした女性、風祭澄香であった。
「げげっ!なんでお前、そんなにでかいんだ?お前は一体何者だ?」
「私は普通の女子大生よ。私が大きいんじゃなくて、あなた達が小さくなったの。
この光線銃で百分の一に縮めてあげたのよ。」
彼女は手にした光線銃を見せる。彼らが気を失う前に見た光は、この光線銃から出たものだった。
「嘘だ…。そんなことあるものか!大体なんで俺達が小さくされなくちゃならないんだ?」
「残念ながら、事実なのよ。あなた達、私を襲おうとしたでしょう?だから、護身のために小さくしたの。」
「何だって!」
彼らは考えた。これは悪い夢なのだと。飲み過ぎからくる幻覚に違いないと。
 ならば、その悪夢を覚ますのみ!百分の一になったとはいえ、彼らも体育会のはしくれ。
二人がかりで女の子一人に負けたとあっては男がすたる。
 彼らは、同時に駆け出した。目指すは彼女のブーツ。ブーツを駆け上り、脚を登れば目標とするものはすぐそこ。小さくなった彼らにとってはスカートはただの巨大なカーテンに過ぎず、障害物にはならない。小さくなってもなお、彼女を自分達のものにするチャンスはある。
 だが、百倍と言うのは彼らにとっては予想以上に大きすぎた。ブーツに乗るのさえ彼らは困難を極めた。なにしろ、彼女の履いているのは革のブーツ。そのつるつるの光沢感が、彼らにとっては足場さえない不安定な壁となって立ちはだかっていた。
「畜生!何てことだ!これじゃあ登ることさえ出来ない。」
彼らは自分たちの無力さを思い知り、やけになって叫んだ。
「これで分かったでしょ。私に手を出すとどうなるか。」
待っていましたとばかりに彼女が上から声をかける。
「くそー!俺達をこんな目にあわせやがって。さっさと俺達を元の大きさに戻せ!元に戻ったらどうなるか分かっているだろうな?」
「そこまで言われて助けてあげるバカがいると思う?」
彼女はゆっくりとブーツを持ち上げる。ブーツの表面でもがいていた彼らは、そのときの振動であっけなく振り落とされた。
「私を襲ったことを、あの世でゆっくりと反省することね!」
彼女は巨大なブーツを彼らの頭上にかざした。彼らは振り落とされた衝撃で腰を打っており逃げることさえ出来ずに、靴底の凸凹を見つめるしかなかった。それでも彼らは体育会のプライドを捨ててはいなかった。両手を上げて彼女の体重を二人きりで支えようとした。
 すぐに彼らの小さな体をを巨大なブーツの靴底が覆った。百倍の彼女の重さは、とてもじゃないけど二人きりで支えられるものではなかった。彼らはほんの出来心から、彼女の靴底で悲惨な最後を遂げる事になったのだった。
 彼女は何度も何度も彼らの残骸を踏みにじった。彼らの体が原型をとどめなくなったのを確認して、彼女は立ち去った。

 ぐしゃぐしゃになった彼らは、次の日の朝、蟻たちに運ばれ餌となってしまった。行方不明になった彼らの消息を知るものは、彼女のみである。

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