作品No075

作:eiさん

高齢者医療関連の研究室に所属する彼女達の研究テーマは、「自分で意思表示できない患者の感情や感覚を脳波から捉える」といったもので、寝たきりの高齢者の介護はもちろん、植物人間化など他のケースで意思表示できない患者の扱いなどにデータを活かしていくことを目的としたものだ。
その研究室には培養液に満たされた人間の脳が設置され、様々なセンサーや脳の反応を測る器具が繋がれている。
脳はもちろん、生きている人間から取り出されたものではなく、未分化の細胞から培養し、脳に分化させたものを購入したものだ。
今回、彼女達の実験室で使用している脳は、分化の途中のある時期に適量の「男性ホルモンシャワー」を「浴びせ」ているため、思考や感覚は男性化している。

 中枢神経系の代表的構造として、大脳、小脳、脳幹があげられる。
こういったものをひっくるめて「脳」と呼ぶことが多いが、機能面からみると、大脳は、人間としての思考と行動の中枢であり、小脳は、運動機能の調節中枢、脳幹は意識と生命の維持中枢と言える。
これが透明の容器に入り、培養液に満たされた状態で彼女達の様々な実験に供試された。
脳波の解析は、よほど熟練しないと、リアルタイムに行なえないのに対し、電位差をマッピングしたものは常に画面上で視覚的にモニタリングできるメリットがある。
いわゆる二次元脳電図を利用したものだが、従来の國際式の電極配置法とは異なり、こういった固定された空間に配置された脳には実際の人間よりも遥かに多くの電極を配置して付けっぱなしにすることができる。
さらに電極の位置を工夫することにより、3次元的に脳電図の表わすことも可能だ。
無論、脳ほど栄養要求的に贅沢な器官はないため、そこに酸素とその他エネルギー源を供給するための装置も接続されている。
対して、脳に刺激を送るセンサーは視覚、嗅覚から触覚(手、足など各部位)、聴覚・・・から果ては生殖器まで、考えられるあらゆるものが揃えられ、その末端は、脳内のそれぞれを制御する部位に接続され、センサーで受けた刺激がそれぞれ脳内の感覚野に到達するようになっていた。
様々なセンサーから伝わる刺激について、脳がどのように刺激を感じているのかをモニタリングするのが彼女達の主な作業だった。

こういった様々な機器、コード、チューブに接続された脳を使い、彼女達は実験計画に従って、センサーに様々な刺激を与え、脳の各部位における電位の変動を観察し、報告にまとめる。
特に主眼は、一般人と異なり、手足がなく直截刺激に対処出来ない脳がどのような挙動を示すかだ。
実験テーマ自体の設定や、実験の指示は学位のある教官クラスが行なうが、日常のルーチン的な実験は彼女達の仕事だった。
通常、こういった研究成果は3月の後半から4月、もしくは夏に掛けて開催される学会で発表されることが多い。

2月・・・・
研究室ではこの時期、データをまとめ、論文を仕上げるのと同時に、次の実験テーマに向けて準備が行なわれる。
それは彼女達の所属する実験室でも例外ではなかった。
2月中旬の金曜日の夕方、様々なセンサーと多数の電極が繋がれた培養装置に収められた「彼」の前には帰り支度を整えた2人の若い女性職員が立っていた。
白衣はもちろん着替えられ、持ち物はバックにまとめられており、部屋履きのサンダルもブーツに履き換えられている。
あとは、コートを羽織ればすぐに帰れる状態だ。

「さてと、あんたともお別れね」
女性の声が彼の脳に響いてくる。
彼は彼女達の発する声は認識できたが、言葉を理解できなかった。
言葉というものは後天的に憶えるものである。
あくまでも彼は実験の為に作られた存在で、言葉を覚えたりなどの教育は受けていない。
脳としては成熟しているが、コミュニケーションの手段に関しては完全に欠落している。
しかし、この一年近い実験期間中に彼は、彼女達が話す言葉の一部を理解できるようになっていたし、言葉の調子から状況を察することできるようになっていた。
判りやすくいえば、獣に育てられた少年がいきなり人間社会に出て、言葉が理解できない状況に似ている。
もしくは、海外旅行に行って理解できない外國語で放映されているTVを見つづけている状態と言ったほうが判りやすいだろうか。
言葉の意味はわからないが、なんとなく状況が理解できるといった感じだ。
彼にとってのより大きなハンディキャップは、自分の意思表示を行なう為の「口や手足」がないことだった。

程なく彼自身がの設置されている場所から、彼を2人がかりで床に下ろす作業が、長いコードの先の視覚センサーからデジタル映像として彼の脳に届く。
各センサーを繋ぐ長いコードが束ねられていくのが見える。
これまで彼の感覚を司った各センサーが、床の上に無造作に並べられていく。
彼は、彼女達の作業の様子にいつもと違う雰囲気を感じ取っていた。
最後に視覚センサーが床に置かれると、床上から彼女達を見上げる視野になった。
彼のほうからは、声を上げたり、手足を動かしたりといったことは出来ない。
ただ、各センサーに受ける刺激が、感覚として彼の脳に流れ込んでくるだけだ。
屠殺されていく獣達でさえ、事前に運命を悟るという。
彼はなんとなく事態を理解しかけた。

「やっぱ、動揺してるよ、コイツ」
明るい色調の茶髪で、光の当たり方によっては、むしろ金髪に近い色調に見えるだろうか。
セミロングにややウェーブがかかっている髪の女性が、モニタリングされている彼の脳電位の動きを監察しながら、もう一人に伝えた。
彼女のいつも研究所室内では一つに束ねられている髪は、いまは解かれている。
生え際から元来の髪の色が見え、染めた色調と微妙なグラデーションを成していた。
ブーツも今年はやっている厚底で、メイクや全体的なファッションも、街では良く見かけるものだが、こういった職場には似合わないくらいケバく見える。
150cm強ほどの身長で、小柄なのと相俟って本来の年齢よりも2〜3歳若く見える。
外観はお姉GALといったところだ。
モニターを見ながら発したその声にはすこし好奇心の響きが混じっている。
「ほんとだ。何されるか判るようになってきたんだ。けっこう成長してるじゃん」
明るい声でもう一人の女性が答えた。
やや痩せ型のその女性は、殆ど黒い髪に見えるが、わずかに茶色がかっており、全体としてはダークブラウンに見える。
髪の毛は、顎くらいまでの長さのショートカットで、ストレートな髪質だ。
毛先はルーズに処理されており、自然な感じのボブといった髪形になっている。
彼女のほうは、ファッションも相棒に比べ落ちついており、年齢よりやや上に見られる事が多い。
身長は160cmほどで、いかにもOLといった感じだ。
今日の足元はそれほどヒールの高くない黒いスタンダードなブーツだった。
「少しは賢くなってきたみたいね。で、せっかくだけど、次のテーマは新鮮な脳が欲しいから、あんたじゃ駄目なの、わかる?」
と、やや痩せ型の女性が彼に話し掛けると、
「さすがに、そこまでは理解できないよ。こいつ」
と笑いながら小柄な女性が切り返した。
「ま、そのほうがこいつにとっても幸せだけどね。とりあえず、こいつには悪いけど早いとこ片付けて帰ろっ」
「悪いけど」と言いながらも、2人の女性の声は全く申し訳なさそうな響きはない。
小柄な女性が試薬棚から小ビンを取り出してきた。
茶褐色のビンに入った液体は、数μlで充分に彼を死に至らしめることができる。
小柄な女性が試薬棚から取り出した試薬の重量を測り、劇毒物台帳に記入しようとするのを、やや痩せ型の女性が緩やかに制した。
小柄な女性に目配せすると、
「でも、あんたも結構役立って感謝してるし、それにこのまま殺すのも少し罪悪感も在るしね☆、最後にお礼の気持ちにイイことしてあげる。」
やや痩せ型の女性が聴覚センサー(補聴器のような集音構造のものに音を電気信号に変換する部品ががくっついたもの)に向かって、甘い声でささやく。
その目は明らかにイタズラっぽく笑っていた。
落ち着いた外観とは裏腹に、好奇心が前面に出てくると、すこし子供っぽい表情になる。
「えーっ、さっさと片付けようよ」
小柄な女性の方が異議を唱えた。
「大丈夫、すぐ、終わるって。こいつイカせるのすぐだから」
「まーね、確かにそんなに時間かかんないね」
と言って言いながらも、小柄な女性は特に面白くもないといった表情で、彼の生殖器のセンサーを手で触れた。
センサー自体はどうってことのない数p四方の平板で、おもに圧感や平板上の物体の動きを電気信号に変換するように出来ている。
一部のノートパソコンについていたマウスがないときにカーソルを動かす装置に似た感じだ。
ただし、それと違うのは、触っている強さも感知できる点だ。
「あれ、あんまり興奮してないね」
小柄な女性が生殖器センサーを慣れた手付きで擦りながら、彼の状態を表わしているモニター見て呟いた。
脳電図と脳波のモニタリングでは、細かい心理状態までは推測できないが、興奮の程度とそれが快感なのか不快感なのかは観察できる。
実際の人間を相手にするときには、これらのモニタリングに加え「心理テスト」を組み合わせ、総合的に判断するのだが、自ら意志を伝えることの出来ない状態の人間を対象とする実験では、このようなモニタリングのみのほうが、必要十分な情報が得ることができある。(意思疎通できないというストレスも加味して)

これまでに、様々な刺激をセンサーに与え、モニタリングしてきた彼女達には容易に「彼の中身」を覗く事ができた。
「こいつ、さっき動揺してたからじゃない?」
小柄な女性が外観に似合わない冷静さで原因を「分析」すると、
「男って結構見た目で興奮するから、盛り上げてやったら?」
すかさずやや痩せ型の女性が、小柄な女性に「アドバイス」した。
「OK−」
小柄な女性は、視覚センサーのコードを握ると、センサーを自分の顔に近づけ、目から口元、そして胸元から下半身へと、なぞるように降ろしていった。
彼=脳自体に強烈な刺激となってデジタル映像が流れ込んでくる。
人間の脳は比較的の多くの部分が、「視覚」に関わって働いている。
色や形を認識したり、動きを認識したり・・・そしてそれらの情報を総合的に集めたり・・一つの映像を認識するために、想像以上に色々な脳内の経路を経て、最後に一つの映像として認識されている。
彼の約数分の1を占める部分の電位が変化し、モニター上でその部分の色が変化する。
その様子が、精密な2次元脳電図を見ていると良くわかった。
「ふふ・・」
センサーが足元に近づくと、彼が大きな興奮を示した。
「な、コイツ?すっごい、こいつ足フェチ?」
小柄な女性が驚いた感じで声を上げた。

「あ、それあたしが原因」
やや痩せ型の女性が落ち着いた感じで、事も無げに言った。
「えっ」
小柄な女性は相棒の言葉に驚きを示したが、やや痩せ型の女性は構わず言葉を続けた。
「夜とかヒマだったから、モニタリングの合間にこいつの生殖器のセンサー、イタズラしたことあるんだけど」

「それなら、あたしもちょっと擦ってやったことあるよ。結構敏感に反応するんだよね(笑)」
小柄な女性が少し照れて「告白」すると、
「やっぱ、あんたもやったの?」
とやや痩せ型の女性が言うと、
「あんたみたいに培養液にビール入れたりとかはしないけど(笑)」
小柄な女性が切り返す。
「こ・う・き・し・ん、それにほんの少しだけだよ。入れたの」
やや痩せ型の女性は弁解しながらも、顔には笑みが浮かべている。
「でも凄い酔ってたよねー、コイツ。あの時はマジでヤバイって思ったよ(笑)。」
「直接脳がアルコールに接するからね。確かにあのまま逝っちゃってたら絶対問題になってたよね」
「(笑)で何だっけ?」
「擦った話」
「そうそう、夜とか結構ヒマだったからねー。最初は、手で擦ってやってたんだけど、シャーペンとかいろんなので刺激したんだけど、何でやっともあんまり反応、変わんないんだよね。」
「あ、それって、センサーのつくりが悪いんじゃない?」
「確かにあんまり、そこらへんの精度は良くないみたい。ま、普通こんなこと想定してセンサー作らないし、感覚がリアルすぎると逆に問題だけど(笑)でもさー、なんか最近反応が鈍くなった気がするんだよねー。それって、さっきのと関係ある?」
小柄な女性がずれかけた話題を元に戻す。
やや痩せ型の女性が促されるように話し始めた。
「それで、話し戻すんだけど、片づけしてパソコンで文章作ってて、暫くたって気づいたら、コイツ、気絶してるんだよね。」
「ただ寝てただけなんじゃないの?」
「でもδばっかり出続けてるから変だなって・・、普通寝ててもけっこう変化するじゃん。それで、ヤバイって思ったんだけど、原因わかんなくて悩んで・・でも、そのとき気づいたらセンサー踏んでたんだよね。」
「ずっと踏んでたの?」
「そんときはわかんない。で、コイツが意識戻してから、再現テストって感じで同じことしてたら・・」
「イッたの?」
「そのときは、あんまり反応なかったんで、違うかなって思ったんだけど。原因がわかんないのイヤじゃん。なんかいきなり原因不明で死なれても困るからと思って、もう一回思い出してみたら、こいつが気絶したときって、センサーをまとめて床に置いてたんでよね。
それで同じ様にしてやったら」
「イッたの?」
「ほとんど勝手にって感じで、あっという間(笑)それで、普通、センサー擦ってやってθ出したら、イッたなって思ったらやめるじゃん。で、気絶したときの再現だからイッてもそのままセンサー踏みつづけたら、すっごい興奮して、で暫くしたらコイツまた気絶。原因これだっ!ッて感じだったよ。ほら、普通のオトコと違って射精しないから、射精寸前のままの興奮が続くんだよね。きっと、」
「ふーん、気持ちよすぎて頭のブレーカーが落ちたんだ」
小柄な女性は明らかに興味を持った表情になっている。
「で、何回かやってると、視覚センサーが床に落ちてるときにこの現象が起きるんだよね。何回かやっても、すっごい反応よくってさ。結局、足でやってるとこ見せながらっていうのがポイントみたいだね。ほら、何かで読んだことあるけど、オトコって視覚で興奮するでしょ」
この説明がさらに、小柄な女性の好奇心を掻き立てたようだ。
「なるほどね。まぁ、コイツもまともな成長の仕方してないから(笑)、変態になってもおかしくないしね。で、ま、いいや。とりあえずコイツが気絶するまでやってやるか」
「なに気合入れんのよ。あんた」
狭い研究室内に二人の声が笑い声に混じって響いた。

「で、ふと思ったんだけどさー、自分のオトコの脳をモニタリングしながらSEXしたら楽しそうじゃない?」
「今度、ここに連れてきてやってみたら」
「だって、見てみたいとおもわない?。で、イク寸前に焦らしてやったりとかさー、反応見ながら感じるとこ探って、あっという間にイカせたりとか」
「はは、けっこう使い道あるかも」

「ま、いいや。今日はささっと、こいつイカせて見ようよ」
小柄な女性が急かすと、
「あんた、気合は入りすぎ」
やや痩せ型の女性が笑いながら、いなす感じで答える。
「だって、今日はオトコ待たせてるから」
「わかったわかった。じゃあ、早くやっちゃおうか。で、どうでもいいけどあんた、その格好、いいかげんに卒業しなよ」
やや痩せ型の女性が苦笑しながら言うと、
「でもこのほうがオトコの反応がいいんよね。やっぱコイツといっしょで、オトコは外観でコウフンさせなきゃ。でもさすがに、この格好もこの冬で卒業だよね」
小柄な女性は、相棒の「苦言」をあっさり避わした。

・ ・・・・・・
「で?」
「どうやってって、視覚センサーは足元に置いて、生殖器センサー踏んで擦ってやっただけだよ。モニタリングしながら」
やや痩せ型の女性が相棒の質問に答える。
「それだけ?」
「だって、結構何回もやったし、モニタリングしながらだからどのくらいの力加減で感じてるかすぐわかるよ」
「モニタリングしながらだと確かにわかりやすいね。で?」
小柄な女性がさらに好奇心を膨らましながら質問するのに対し、やや痩せ型の女性は具体的に答えた。
「センサーの感度がそんなに良くないから、強くやったほうが興奮するみたい。ただ踏むよりは少し擦る感じのほうがイクの早いよ。それに、こいつ、ホントには出さないから、何回でもすぐに感じるみたいだし・・」
「ふーん、足でイかされたから足フェチになったんだ。じゃあ条件反射?」
「違うよ、もともと素質在ったんじゃないの?今まで手で擦ってやっても手フェチになってないし」
「ま、いいや。じゃあ気絶するまでやってやるか!(笑)」
「だから、あんた気合入れすぎだって(笑)」

早速、小柄な女性が、ブーツのまま生殖器センサーを踏みつけた。
相棒が視覚センサーを足に近づけ、小柄な女性を下から見上げるさせる。
と、脳の活動電位の変化を示す輝点がモニター上に多数輝き、彼が非常に興奮していることを示した。
「すっごいじゃん」
予想以上の反応に目を輝かせる小柄な女性に、やや痩せ型の女性が
「だから、言ったとおりでしょ」
といいながら加わり、二人で生殖器センサーを踏みつけた。
彼の視覚センサーは生殖器センサーの近くの床に置かれままで、非常に低いアングルから彼の「生殖器」を代わる代わる踏みつける合計4本の足が映っていた。
よく履きこまれてはいるが手入れの行き届いた黒いブーツと、割と新品に近い状態のゴツイ厚底ブーツが彼の生殖器を蹂躙する映像が彼の中に直截飛び込んでくる。
これまでは、部屋履きのナースサンダルで踏みつけられる映像とそれによって与えられる「快感」になれていた彼だったが、ブーツによる踏み付けは、彼にとってそれ以上に感じた。
ブーツの形、光沢、履き皺、材質感・・凶器にすら見える固い靴底・・彼はずべてを受け入れた・・
女性の足の動きにあわせるように彼はモニター上の電位変化を示す輝点でそれに答えた。
「ほんと、こんなんですっごい興奮してるー」
「いつもよりすごいよコイツ。あ、そろそろだよ」
「あ、ほんとだ」
彼女達が2次元脳電図をモニタリングしているスクリーンに注目する。
「イッた(笑)」
彼の脳が射精状態を示すと、彼女達は笑った。
さらに踏みつづける。
「へぇー、やっぱ興奮したまんまなんだ。普通は出しちゃうと一回醒めるけど」
「実際には出ないからねコイツ」
「じゃ、溜まる一方じゃん(笑)」
「いいんじゃない?出ない方が。こっちもブーツ、汚れないし・・」
このとき、小柄な女性のケータイが鳴り、彼の生殖器センサーを踏みつけながら、机の上にあるバックからケータイを出し、受け答えする。
「うん、あたし。」
・・・・・・・・・
「あ、こっちももう終わるから、うん、7時ね。じゃ」
「なに、オトコから?」
やや痩せ型の女性がからかうように小柄な女性に聞き、
「こいつの始末、あたしやるから、オトコのとこ行ったら?」
「いいよ。少し待たせるくらいで。あたしもコイツの最期見届けてやりたいからさぁ。まぁ半年以上世話になったし(笑)」
「こっちが世話してあげたんでしょ」
意味ありげな笑いを浮かべながら切り返す。


「あんたにはいい光景でしょ?」
小柄な女性が床に置いてある彼の視覚センサーを足で手繰り寄せ、さらに真近で自分の「生殖器」が踏みにじられている様子を見せつける。
距離的には、10数pといった近さだ。
二人のブーツの小皺や小さなキズまで認識できる距離だ。
その光景は一層彼を快感の頂点へ導く作用をしたが、同時に彼は、彼女達の一踏みごとに自分の生命が削られていく感覚も感じた。
その二つの相反する感覚が彼を陶酔状態にした。
「最期だから、たっぷり見て楽しみなね。」
十分としないうちに、数回以上も「絶頂」の波形を示した彼の脳波は興奮状態が維持され、その波形を示す画面の上端で小刻み震えている。
極度の興奮状態が連続している状態だ・・・これまでの大きな上下を繰り返す波形とは明らかに異なっている。
彼に耐えられる「限界」に近い興奮が連続している。
「そろそろ、気絶するかも・・」
モニターを見ながらやや痩せ型の女性が呟いた。
「やだ、コイツ、絶頂状態じゃん」
小柄な女性も彼の状態を認識した。
「体があったら、こんなになる前に出しちゃってるハズだから、絶対こんな興奮味わえないよ」
「こういうとき、射精させたらどれくらい出るんだろね?」
「うわぁー、それすごそーじゃん」
二人は彼の存在を一時忘れ、話に集中する。

「あ、あんたオトコ待たせてるんでしょ?」
やや痩せ型の女性が思い出したように、相棒に言った。
「あ、そうだ」
「じゃあ、そろそろやる?」
「うん」
やや痩せ型の女性が机の上に置いたままになっている茶褐色の小ビンに手を伸ばそうとする。
「あ、いいいよ。クスリ使わなくても」
今度は小柄な女性がやや痩せ型の女性を制した。
「えっ」
「これって、蹴ればオワリだよね。そっちのほうが早いよ」
小柄な女性はそう言って、彼を収めている透明容器を厚底ブーツの爪先で2、3度小突いた。
「えーっ、そんなことしたら飛び散るよ」
やや痩せ型の女性が難色を示した。
「ダイジョーブだよ。ビニール被せて蹴れば。ブーツも汚れないし、ストレス解消じゃん」
小柄な女性が言うと
「なに子供みたいなこと言ってるの。割って培養液出すだけにしなよ。それで充分死ぬんだから。それにコイツも苦しまないよ」
とやや痩せ型の女性がたしなめる。
二人は、ビニール袋を二重にして置き、開け口を開いておいたところに彼を運んで内側のゴミ袋ですっかり彼を覆い、上端で結んだ。
彼自身とその付属機器は、嵩張るというだけで重量はそれほど無く、女性にとっても「軽作業」だった。
彼に繋がっているセンサー類は結んだ袋の口から飛び出しており、彼自身がビニールに覆われているにも関わらず、センサーによって「外界」の刺激は今までどおり彼に伝わる。
作業が終わると、すかさずやや痩せ型の女性が彼が収められた容器に右足を掛ける。
「あ、ずるい。なんであんたがやんの?」
小柄な女性がクレームをつけると、
「へっへー、あたしがこいつを足フェチにしたんだから、責任とろうかなっと思って」
やや痩せ型の女性は外観に似合わない子供のような笑顔を見せながら相棒に弁解した。
「しょーがないなー」
小柄な女性が不満そうな表情をで彼の視覚センサーを持ち、彼自身と踏みつける相棒を映した。
「これだけ、イイ思いさせてあげたんだから、満足でしょ」
やや痩せ型の女性は足に力を込めながら彼に話かける。
彼自身を覆っている容器は一昔前だと、かなり硬くて重い丈夫な容器だったが、最近は割と薄くて弾力がある素材を使用している。
以前は非常に強度的に優れた素材で容器が作られていたが、環境ホルモン等、実験生体への影響を考慮すると、使用できる素材が限られ、より強度的に脆い素材を使わざるをえなかった。
やや痩せ型の女性が足に力を入れると、容器が撓み始めた。
容器の強度が弱いため、衝撃が加わったときにゆがむことで力を逃がし、不慮の事態から彼を保護するのだが、連続して力を加えると比較的脆い。
程なく、踏みつけにより、容器のゆがみが限界に達した。
「これで、ヒビ入って培養液が出ちゃったらコイツ終わりだね。・・・じゃ、ホントにいくよ」
小柄な女性が相変わらず視覚センサーを相棒が踏みつけている部分に向けている。
「お!さらに、絶頂って感じじゃん」
笑いながら小柄な女性がモニターの脳電図を見ながら告げた。
彼女の言葉通り、脳電図を示すモニターの輝点が殆ど脳全体に広がり、極度の興奮を示している。
やや痩せ型の女性はブーツの下に存在する彼を見おろしたままだが、その表情は真剣だ。
見た目に容器が限界に達しているのが分る。
部屋には、あたかも、膨らましつづけた風船が割れる寸前の緊張感にも似た感覚が漂っていた。
やや痩せ型の女性がさらに体重を掛ける・・・カバーに罅が入り、内容液が罅から滲み始めた。
ゆがんだカバーが悲鳴をあげるように小さく軋む音を立てる・・
と、いきなり小柄な女性が相棒とは別の角度から彼が収まった容器を踏みつけた。
踏みつけた力はそれほど大きなものではなかったが、限界に達していた容器は脆かった。
その瞬間、容器が割れ、二人の女性の足が一気にカバーを踏み抜いた。
無理な力がかかったため、ビニールは局所的に伸びて薄くなっていた部分から裂け、二足のブーツがビニールの裂け目を通って直接彼を踏みつける形になった。
二足のブーツの硬い靴底は、やわらかな「彼=脳」をあっけなく圧し潰し、崩壊した彼は狭い容器の中で二足のブーツによって周辺に押しやられ、崩した豆腐のように広がった。
モニター上で彼の脳波を示すラインは、一瞬にして下端で直線状になった。
「な、何すんのよ!あんた」
やや痩せ型の女性が、慌てて小柄な女性に抗議したが、小柄な女性にとっては相棒の抗議や彼の死よりもブーツの汚れのほうが重大だった。
「ごめんごめん!こんな一気に割れるとは思わなかったから。うわー、ブーツ汚れたぁー!」
その言葉にやや痩せ型の女性は反射的に自分の右足の視線を移し、慌てて彼の残骸と女性のブーツで飽和状態になっている狭い容器から足を抜きとった。
落やや痩せ型の女性は容器から足を抜き取る際、抜き取る際に粘性物質と空気の移動によって発せられる微かな音を聞いたが、意識はブーツについた残骸に集中していて、殆ど気にとめなかった。
彼女は近くの実験台に置いてあった布に手を伸ばし、ブーツを拭き始めた。
容器の裂け目から培養液と彼の残骸が二重にした外側のゴミ袋の中に流れ出していた。
「大丈夫、あんたの殆ど厚底のとこしか付いてないじゃん。すぐふき取れるよ。それよりあたしの見てよ。あんた友達なくすよ」
「ごめんごめん、うわー、ホントあんたのブーツ足首まで汚れてんじゃん」
小柄な女性はくり返しあやまったが、罪悪感の無い声だった。
彼の残骸は、やや痩せ型の女性の黒いブーツの甲の部分から足首にまで付着していた。

…・・最後に雑巾を念入りに踏みつけ、靴底に付いたの残骸をこそぎとる・・
まだブーツについた小傷の中や靴底のギザギザした部分には彼の痕跡がわずかに残っていたが、数分掛かって二人の女性のブーツからほぼきれいに彼の残骸が拭き取られていた。
彼の残骸はそれほど強い粘着性は持っておらず、比較的掻き取り易い物性だった。
やや痩せ型の女性は、ブーツを拭きながら小柄な女性に文句を言っていたが、ブーツがきれいになる頃には、小柄な女性はいつもどおりに相棒の抗議をほぼ躱し終えていた。

「だから最期はクスリにしよって言ったのに」
やや痩せ型の女性がまだ不満そうに言うと、
「いいじゃん、これでコイツも幸せに死ねたんだし、罪悪感0って感じだよ。普通の人間だったら絶対あそこまで気持ちよくなんないことしてやったんだし…化けてでられたらヤでしょ?クスリ使ったり、培養液止めたりするよりずっと良いよ」
彼のセンサー類を手際よく本体から外しながら、小柄な女性が答えた。
「確かに脳だけの亡霊ってあんまり考えたくないな(笑)でも、踏んだ時の感触、まだ残ってて気持ち悪ぃよ。あんた、あんまり感触わかんなかったでしょ?厚底だから」
「まぁね、でも踏んだ時に足ひねりそうになったけど・・。それより、これどうする?」
「とりあえず、床に飛んだのだけ拭いて、あとは袋ごと凍結庫に入れとこっか。腐ってニオうとヤダから」
「そうだね。休み明けに業者に引き取って処分してもらえばいいしー。あ、培養液も凍るよね。」
「たぶんね。−10℃くらいで凍ると思うから、充分だよ。そっか、こいつ踏まないで凍結庫にいれちゃう手もあったね。」
「でも、じわじわ死ぬから恨まれるよ(笑)」
小柄な女性が、ブーツを拭いた雑巾を二重にした内側の敗れて穴の開いたごみ袋に放り込むと、さらに外側のごみ袋の口を縛ってプレハブの凍結庫に運んだ。
「でさー、どうでもイイコトかもしれないんだけど、こんな変態脳モニタリングして、ちゃんとしたデータ採れてるのかなー(笑)」
「ははは、それは、言うなって(笑)」
数分後、研究室の照明は消され、戸締りもなされて、女性たちの姿も研究室から消えていた。

【徒然の文】
@脳波および文章の背景について・・・
脳波が発生する原理は未だに解明されていないようですが、様々な刺激や脳自身の状態の変化による、微細な電位を100万倍くらいに増幅して記録した波形が脳波といわれ、様々な周波数のもがあり、α〜δといった周波数帯によって大きく分類されております。
これらの分類の中にも早い周波数帯、遅い部分などが在り、同時にいくつもの波長帯の脳波を見てリアルタイムに解析し、脳の状態を推察するのは特殊な場合を除いて、相当熟練した人でも難しいのが実情です。
本文中の出てきたθという波長帯は女性が絶頂に達した時などに出す周波数帯です。あとは修行者が悟りを開いた時とか、ごく浅い眠りの時とかに出ると言われてますが、いずれにしても通常の活動状態では出難いもので、本文中でも「彼」が達しているのを示す一つの材料にしました。同時に深い昏睡状態ではδがでることが知られています。
脳電図は、さら脳の電位の変化をビジュアルに捉えようとしたもので、脳の活動部分をマッピングしたものと考えると良いと思います。通常、マッピング地点は國際的な取り決めに従って10〜16個の電極が取り付けられますが、本文にある静置した脳は、電極の取り外しのわずらわしさが無いので、はるかに多くの電極を付けられます。
これにMRI〔脳を立体的に見た画像〕を組み合わせるといったのが本文中の設定で、こうなるとリアルタイムで記録される数多くのデータの処理のための周辺機器は特殊且つ非常に多く、特殊なものでや解析用のコンピュータなどはそうとうのレベルである必要があり、却って人工的に発生させた脳などは安価で、実験によって殆ど使い捨てになってしまうといった背景にしてしています。
なお、場面自体は半公共の研究施設のようなものを想定しました。
A理系の女性達
理系の女性は一般に好奇心の強いタイプが多いようです。解剖などをやっても、より熱心に取り組むのはどちらかというと女性のほうが多いようですし、ダレるとより強烈に脱線するのも女性のほうが多いようです。
「壁に耳あり」「障子に目あり」「腹を立てる」「足を棒にする」などと解剖の対象物を遊び道具にしてしまったりといった感じです。
あと、ナースとかと飲みに行くと、AM2時過ぎまで飲んでる時に「あたし、今日早番なんだよね」とか(医療ミスの温床ですね:彼女達はミスをしてもよほど重大な結果を招かない限りあまりクヨクヨ考えないようですし)
また、こういった業界以外の男性(若い)が居るような飲み会では、一般の人がなじみが薄く、グロい話をして、大抵の男性が辟易するのを見て楽しんでいるようです。
(例えば手術中の心臓マッサージ(心臓を直接手で持って刺激します)の手付きをしながら「このひともう駄目だろうな」とか)
無論、上記のようなタイプは少数派ですが、本文ではこういった理系の女性っぽい部分を表現できたらと思いましたが・・・・。
Bあと、最近の企業の業績のごとく2極化傾向にあるようで、質の高い研究者が居る一方、そうでもない研究者が居るようです。
最近は専門分野のなかでもかなりマニアックな研究テーマが多いようで、実用となると?がつくものも多いようです。
とくに学校や公的な研究機関ではすぐに実用化されないような基礎的な研究をする者のほうが、よりえらいと思われ傾向が今でも残っておる気がします。
したがって、本文にあるような実験はどっちかというとあまり主流ではなく、片手間っぽくなるのかもしれません。

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