作品No069

作:eiさん

15cmほどの大きさに収縮している男は、女性の手に平に載せられてその部屋に運ばれた。
女性がドアを開けるとあまり広くなく、シンプルな机と椅子が一組置いてあるだけの部屋には既に先客がいた。
15〜16歳くらいの少女だ。
あどけない顔によく発達した体がすこしアンバランスな印象を与えるが、この年代の女の子の特徴と言えるかもしれない。
化粧はしているが、いかにもファッション雑誌の真似をしたといった感じだ。
髪の毛は毛先がライトの光を受けてやや明るいち茶色にみえるくらいにわずかに染めている。
ストレートの髪が方まで伸びており、その毛先はルーズに処理されており揃っていない。
街を歩いていても同じような感じの少女は頻繁に見かけるにちがいない。
「あ、次の人が来たから、そろそろやろうか」
少女が床に向かって話し掛けるのを見て、男は初めて少女が一人でないことに気づいた。
床には彼と同じく15cm程度に縮小された若い男が居り、少女を見上げていた。
おそらく、彼と同じく「若返った」のだろう。
「すぐ終わるから待ってね」
少女は、女性の手の平の上に居る男に笑いかけ、女性には軽く会釈をした。
男を運んできた女性は、男を手の平から床に降ろしながら、
「いいわよ、ゆっくりやっても。今日はこの人で最後みたいだから」
と答えたが、少女のほうは「仕事」を早く済ませてしまうつもりのようだった。
少女は、再び若い男に注意を向け、呆然と少女を見上げている若い男を右足の爪先で軽く小突いた。
縮小された若い男にとって、少女の巨大な足による衝撃は、十分すぎるほどの大きさで、10p程も後方に飛ばされ、尻餅をついた。
実際のスケールだったら、少なくとも1m以上の距離になる。
さすがに、これくらいの衝撃では若い男性は怪我もしなかったが、予想以上の衝撃だったことは若い男の表情が物語っている。
「あたしを選んでくれてアリガトね。おかげで欲しいバック買えるよ」
そう言いながら少女はゆっくりと右足を若い男に押し付けた。
少女の履いているキャンパス地のスニーカーは、かなり履きこなされ、至る所擦り切れ、穴の空いているところも数ヶ所あった。
その穴からは、ルーズソックスの白い生地がのぞいている状態だ。
爪先を覆うゴムの部分も汚れが付着しており、小さなキズも入っている。
おそらく、このスニーカーは購入時に白だったに違いないが、履きこまれ紐も含め全体的にグレーに変色していた。
そのため、穴からのぞくルーズソックスの白い生地は良く目立った。
少女は若い男の胸から下を踏み抑え、若い男の表情を確認した。
若い男が圧迫されながら一瞬顔を横に向け、わずか30cmほどの距離で、光景を眺めている男と目が合った。
少なくとも男はそう感じた。
横を向いたのは一瞬で、若い男はすぐに少女を見上げた。
若い男の両手は自由になっているが、少女の巨大な靴を腕を広げて抱きかかえているしかなかった。
これから彼を襲う凄まじい圧力と、すでに彼を襲っている恐怖に耐えるために、何かにつかまる物が欲しいという心境は、心理学的に考えても極めて自然だ。
ただ、若い男が掴まろうとしている対象物が、自分を死に追いやる凶器でとなる、少女の巨大なスニーカーしかないというのが皮肉だった。
「いくよ。」
少女が若い男の顔を見ながら、少しずつ体重を掛けると、胸から下を圧迫されている圧力により、逃げ口を探す腹圧により若い男の口は無理やり開かれ、呻き声が漏れた。
少女が若い男の表情を見ながら目を細めた。
さらに力が掛かり、若い男の意志に関係なく、胸を圧迫されたために頭が床から持ち上がった。
わずかな距離からその状況を眺めている男には、明確に何か複数のものが折れ、砕ける音が聞こえた。
若い男の呻き声が途切れると、喉奥から大量の空気と液体が吐き出される音がして、次の瞬間、若い男の口から大量の血液が噴き出した。
少女は若い男を注視しながら、一度やや掛けていた体重をわずかに緩めた。
圧迫する力が緩み、若い男の頭が再び床に下がろうとしたとき、少女がやや勢いをつけて再び体重を掛けると、若い男の頭は再び持ち上がり血を吐いた。
さらに少女が若い男を踏みにじると、今度は血液を噴出しながら若い男は首を反らせ、真上を向いた。
少女の踏みつけによる圧力で、限界まで開かれた若い男の口から、消化器と思しき管状の内臓が飛び出し、垂れ下がった。
目を細めて足下の若い男を見ている少女が口元に、一瞬笑いが浮かぶが、ギャラリーが居るのを意識した少女は、それを堪えて勤めて平静な表情を作った。
少女は若い男の状態を確認するように、一度足を退けた。
若い男の頭が床に落ちた。
男は、この一連の「作業」をわずか30pほど離れた床の上から見ていた。
と、言うより魅入られたように注視していた。
が、少女が足を退けた時、初めて我に帰って、若い男と少女を観察するわずかな余裕が出来た。
若い男の胸から下は、この短い時間の踏み付けで、血と体液に塗れたくたくたの肉塊に変わっていた。
踏まれなかった腕が若い男の意志とは関係なく、わずかに痙攣していた。
若い男の血は20p程も飛び散っており、吐いた血の一部が少女のスニーカーに付いていた。男は、少女のスニーカーに付着している消えかかったシミのような汚れの何割かはこうした犠牲者によるものだと確信した。
少女は若い男に致命傷を与えてた事を確認すると、今度は若い男の体全体が靴底に覆われるように踏み、ゆっくり体重を掛けた。
踏み残された部分が砕ける音が再び男の耳に達し、床とスニーカーのわずかな隙間から血が飛ぶのが見えた。

「す・・ごい・・・」
これが、若い男が少女に踏み潰されていくのを見ていた男が発することの出来た言葉の全てだった。

少女は若い男を踏んだまま、机の上に置いてあったポケットティッシュに手を伸ばし、一袋の半分ほどを纏めて取り出して若い男を踏んでいる足の横に投げ落とした。
そして、若い男から足を退けてお、落としたティッシュに対して靴底の汚れを擦りつけるようにして踏みにじった。
少女は、残りのティッシュで若い男の残骸を、殺した昆虫でも包むかのようにして取り除き、床を軽く拭いてコンビニの袋に入れて、部屋の置いてあるゴミ箱に捨てた。
最後に少女が床の汚れが拭き取れれたことを確認し、待っていた女性に
「お待たせ」
と言い残して部屋を出て行った。
少女の態度に、全く動揺はなく自然な態度だった・・・若い男がゴミ箱に捨てられる光景を見て、男は契約書にあった「埋葬は不要」という項目を思い出した。
「さてと、次はあなたの番ね」。
黒い皮製のロングブーツを履いた女性の足が彼に近づいてきた。



男は、長いこと病院にいた。
高齢で、難病に冒された彼が元気に退院する見込みは、全くないと言ってよかった。
男には身寄りはなく、チューブにつながれ、手足が不自由で床ずれがひどく、排泄まで手伝ってもらわねばならない生活に倦んでいた。
これらの本来の疾病の苦しみに加え、孤独感も絶え間なく男を苛む・・
男は余命についても考えたが、この生活をしている限りは余命の長さは肉体的苦痛と精神的苦痛を延ばすだけだと考えた。
ヘルパーとは接する機会があるが、所詮ヘルパーは仕事として男に接しているだけだと感じており、決して男は心を開かなかった。
そのうち、親身だったヘルパーも次第に事務的になっていき、男はますます心を閉ざした。
毎日が死んだような生活を送っているある日、男はある一枚のパンフレットに心を奪われた。
それは政府の終末医療についてのもので、その内容の一つに、非常に高額なコースだが、細胞を若返えらせる技術が確立され、高齢者でも20代の肉体に戻れ、現在冒されている病気とも決別できるというものだ。
パンプレットを読み進むと、技術的にまだ不完全で、数日で副作用のため、確実に患者は死亡すると書いてあり、モニターを募集しているが、対象者は「確実に費用を払える」のはもちろん、「身寄りの無い男性」というものだった。
「男性」が指定されたのは、これまでの実験では治療効果が女性よりも男性のほうが確実だったためで、「身寄りの無い」というのは遺族とのトラブルを避ける為だった。
男はすぐにこのパンフレットに心を奪われた。
特に若返って、「何かやりたい」ということはなかったが、とにかく今の生活を脱出したかった。
男は副作用について全く気にとめなかった。
数日後、ベットの上で男は契約書にサインしていた。
男のそれほど多くない財産が処理方法が確定すると、数日後に男は病院から去り、政府の医療機関に移された。
早速「治療」が施され、数時間後には男は自分の体に力がみなぎるのを感じた。
鏡を見るとまさに20歳の自分だ。
主治医によるとこの効果は個体差はあるが約2日間であり、その後は急速に細胞が萎縮して最期を迎えると言う。
男はそれについてはなんら頓着しなかった。
すでにパンフレットや契約書を読んで承知していたからだ。
心の準備は既に出来ている。
ただ、これまでの苦痛から解放され自由に動き回れると言うだけで充分だった。
2日間に何かをやり遂げるという目的もない。
ただ心身ともに健康で平静なうちに自分の死を迎える心の準備をしたかっただけだ。
2日間、男はその医療施設で過ごした。
歩き回ること、階段を上ること、食事をすること・・・・看護婦に冗談を言うこと、さらには排泄が自分でできることすら嬉しかった。

2日目の夜、男は自分の体に異変が始まったのを認め、主治医に相談しようとした。
しかし、応対したのは医師ではなく若い女性のカウンセラーで、2日目の夜を男は専用個室で過ごすことになった。
カウンセラーによると、とにかく平静に寝ていることで苦しみは無いと言う。
男は覚悟を決め、専用個室で横になった。
この2日間は充実していた・・・明日になれば自分はすでに安楽に死んでいるだろう。と考えて・・・

次の日、男は無事目を覚ました。
男はまだ生きてることを確認し、周りを見渡した。
しかし、周りの状況がまるで違っている。全てのものが巨大化したようで、彼が眠っていたベットまでも白い平原のように見えた。
男は、死の覚悟は出来ていたが、予想外の出来事にうろたえた。
ドアが開き、昨日の若い女性のカウンセラーが入ってきた。
「おはよう。気分はどう?」
男にとって、彼女は巨大だった。
「こ、これはいったい・・・」
「契約書に書いてあったでしょ?細胞が萎縮するって」
「じゃあ、このまま縮みつづけて死ぬんですか?」
男は、既に覚悟は決めていたので比較的平静に聞くことが出来た。
「このままじゃ、死なないわ」
「えっ?」
「それで、あたしが来たの。あなたが自分の死に方を選ぶ手助けをするって言うわけ。」
男が黙っていると、カウンセラーは男に巨大な冊子を見せた。
その中には、炭酸ガスによる安楽的な窒息死・・麻酔死・・ビーカーの中での溺死・・など数十種の死に方が記載されていた。
「考えさせて欲しい」
と男が言うと、
「じゃあ、待ってるわ。あまり時間が無いから十分で決めてね」
とカウンセラーが言い残し、部屋を出て行った。
男は呆然としていたが、やがてリストの中から一つを選択した。
きっかり10分後カウンセラーが再び現われ、男は自分の希望を述べた。
男が希望した方法は女性による踏み潰しだった。
リストにある数多くの方法の中でこの方法を選んだのは、他人と接して、死を見届けてもらえる度合いが高い方法に思えたからだ。
自由に体が動かせるようになった数日間、人生の終盤を孤独に生きてきた男にとって、自分が人と接するということにいかに渇していたかを思い知らされていた。
カウンセラーは予想どうりと言った表情で
「ここに来るほとんどの人は例外なく、この方法を選ぶわね。さて、これが女性のリストよ。あなたが指名したら午後には来るはずだから」
カウンセラーは、用意良く持ってきたリストを男の前で開いて立てた。
レストランのメニューのような男にとっては巨大なリストには女性の写真とプロフィールが載っていた。
比較的若い女性が多く、中には「孫」を想定しているのだろうか、中学生くらいの子もいる。
女性達の写真は、縮小された男にとってほぼ等身大に近かった。
これらの女性達は、政府からこの「仕事」を委託されており、どういう選考基準があったのかは判らないが、30名近い女性の写真はいずれもカワイイもしくは美しかった。
数分後、一人の女性を指名した。
男が指名したのは21才の女子大生だった。
「わかったわ。連絡しとくわ。午後には会えるわよ」
とカウンセラーが言い、
「それまで、この特別室に入っててね」
と、男を指先で摘み上げ、持ってきた小さな透明容器に入れ、部屋を出た。
女性を指名し終わると、これからの自分の運命が明らかになったことに一種の安心感を憶え、昨日からの心労でぐっすり眠り込んでしまっていた。
何が起こるのか判らないよりは、絶望的であっても先を見通せたほうが人は安心する・・・

男が結んだ契約は、政府の高齢者医療対策と、財政難、景気対策の一石三鳥を狙ったもので、
@契約者が早期に死亡することで医療費および年金の支給額が減ると同時に、契約者から多額の報酬が得られる。
Aさらに契約を実行するスタッフの雇用を生み
Bこのような特殊職に付いているスタッフには世間よりも多額の給与が支払われるために、消費マインドが向上する。
といった狙いのものだ。
さすがに現在は全國展開する段階ではなく、@についてはある程度効果を確認できたが、A、Bについてまだ未知数で、スタッフの数から考慮すると効果が薄いといえた。
言うまでも無く、契約者の満足度については細心の注意が払われており、その一つが、希望のコースから最期を選べるというものだ。
オプションによっては、例えば体が回復した2日間に快楽を尽くせるように便宜を図ったり、作家などのアーティスト(自称が殆どだが・・)のように未完成の作品を最期の数日で完成させたいといった契約者には、それなりの環境も整える。死後の埋葬もオプションで可能で、もっと言えば今回の女性に踏み殺されるといった最期も元は、初期の契約者の希望によって実現されたもので、男が契約した頃にはすっかり「コース」として定着したものである。
無論、契約者の最期など、契約者が公開を希望しない情報については一切秘密が守られる。


16:00・・・
「来たわよ」
容器を指先で小突く音に気づいて、男は目を覚ませた。
男が目を覚ますと、まさに写真どおりの女性がドアから入ってくるところだった。
身長は割と高く、165p位か、顔立ちとプロポーションは明らかに写真よりも実物のほうが良く見えた。
多分、多くの男性が彼女に溺れたもしくは、現に溺れているに違いない。
男はそう確信した。
落ち着いた色調の茶髪に、多分流行りなのだろうが、男にはやや派手に見えるメイク・・形の良い唇・・同じく形が良く、充分張っているバスト・・腰のくびれのライン・・持った良く手入れされた肌の白さとキメ・・
こういう機会でなければ、自分は相手にもされないだろう・・・そうも思った。
男の目は、やがて自分を踏み潰すであろう女性の足元に向いた。
ミニスカートから伸びた形の良い足は、黒の皮製のロングブーツに包まれていた。
ブーツはスタンダードなタイプで、良く手入れされているらしく、皮特有の光沢を放っている・・・ヒールはそれほど高くなく、8cmくらいか・・やや太めだ・・・サイドにファスナーがある・・
女性がカウンセラーと二言ほど会話すると、男の入っている容器に近づいてきて、男を覗き込んだ。
男と目が合うと、
「はじめまして。今日はよろしくね」
と、男に笑いかけた。
男は女性の笑顔に痺れた。
どもりながら
「こ・こちらこそ・・・」
と言うのがやっとだった。
人生の最後に・・・たとえに踏み潰されるにしても、これほどの女性と接することが出来ることに男の気分は高揚した。
女性はカウンセラーのところに戻り、多分今回の報酬が入っているだろうと男が推測した封筒を受け取り、書類にサインして、バックに仕舞い込んだ。
女性は再び男の入った容器に近づき、今度は容器の蓋を開け、男を取り出した・・
15cmほどの大きさに収縮している男は、女性の手に平に載せられてその部屋に運ばれていった・・・

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