作品No034

作:eiさん

12月のある日、理科実験室はいつもとは違う興奮に包まれていた。
この日の3、4時間目はフナの解剖だったからだ
生徒達はすでに各班に別れて座っていた。
彼らが授業前に騒いでいることは珍しくなかったが、彼らの話題の大部分はこれから始まるフナの解剖についての事であった。

授業が始まり、麻酔薬を染み込ませたガーゼを頭部に当てられたフナが登場したときには、教室内の騒々しさはピークに達した。
その騒々しさは実際に作業に入っても変わらない。
「エーッ!!生きたまま切るの?」
生徒の中には無闇にはしゃぐ者や、フナがかわいそうで半べそをかいてる生徒もいたが、少女はそのような同級生の男達に対し平然としていた。

一般的に11〜13歳くらいの時は女生徒の方が心身共に男子生徒よりも大人びている。
少女も例外ではなかった。
かわいいといった感じの中に、美しいといった形容が混在する顔立ちで、背もすでに160p達していた。
髪こそ染めていないが、一見高校生でも通用しそうな容姿である。
少女は周りの女生徒よりもさらに大人びて見えた。
クラスの中ではそういった意味では目立つ存在で、何人かの男子生徒は明らかに彼女の大人びた感じに対し好意を持っていた。
逆に何人かの男子は「照れ」もあり、少女の態度などに悪意を持っているかのような態度をとる者もいた。
そういった男子生徒は、彼女に対し悪ふざけをする事もたびたびだったが、彼等のこのような児戯に等しい行為の動機はすべて少女に見抜かれていた。
正直、少女にとって男子生徒たちは「ガキ」というより、「サル」に近い感じを受けた。
騒ぐ男子達に対し、うるさそうに軽蔑の眼を投げかけたがすぐに自分の作業に移った。

彼女の班では誰も率先して作業を進めるものがいなかったので、少女が執刀することとなった。
何人かの男子の好奇の目を感じたが、少女は一向に動じなかった。
「いつものこと」といった感じである。
少女は、フナの体重と体長を測定した。
他の同級生は騒ぎながら、彼女の作業を見守っている。
続いて、フナの肛門からはさみを入れ、側線を越し、エラのところまで切った。
フナ特有の生臭い臭いが立ち込める。
「うわぁー、くさー」
等と騒ぎ、鼻をつまんで笑っている同級生も居る。
大声で騒いでいるのは、どちらかと言うと男子生徒のほうだ。
小さ目の解剖バサミは、決して作業しやすいとはいえなかったが、少女は作業を続けた。
切り取った部分を取ると、「彼」の「中身」が見えた。
周りの生徒達が「ワー」とか「キャー」とか言いながらも、興味津々で覗き込んでいる。
少女に切られながら、「彼」の心臓はまだ動いていた。
「まだ生きてるね」
少女が冷静に確認する。
横にいた女生徒が「彼の状態」をメモをとった。
「彼」がたまに痙攣すると、周りの生徒達は興奮して騒いだ。
他の班も何とか作業を続けているようだ。
どの班も最初はやり手がいなく、とまどいながらも結局執刀しているのは女生徒が多かった。
少女の班を除いて、作業の進行度合いと騒ぎ加減はどこも似たようなものだ。

各臓器の位置を教科書と照らし合わせて確認する。
少女は、「彼」の浮き袋を取り出し、硝子シャーレに移した
少し水を張ると確かに浮く。
別の女生徒が、いたずらっぽい笑いを浮かべて、浮き袋に針を刺した。
周りに居た男子生徒も、続いて同じ事をする。

彼等が騒ぐのを尻目に、少女はさらに作業を進めた。
「彼」の心臓はまだ動いていた。
「彼」の生命力に生徒達は驚いていたが、他の班でもフナの状態は同様で、彼自身の生命力と言うよりフナという「種」に備わった生命力と言えた。
むろん生徒達にはそんなことは関係なく、心臓が動いているのを見て無邪気にはしゃいでいる。

続いて少女はあっけなく「彼」の心臓を切り取った。
そして、心臓の重量を測る。
1g程度しかない「彼」の心臓は、秤の上でもまだ動いていた。
さらに小腸の長さの測定・・切ってみると中から液体が・・・・えらを虫眼鏡で観察・・・
他の班では、男子達が「さしみ」と称して身を切り刻んで、得意になって騒いでいる。
「最初は手を出せなかったくせに・・・」ますます少女は男子達を軽蔑した。
少女は彼等を一瞥し、すぐに自分の作業に集中した。

しばらくして、教諭が
「早く終わったところは、頭も解剖してみましょう」
と言った。
一番作業が早かった少女の班のところに教諭が来て指示をした。
少女は教諭の指示に従い、「彼」の頭を切り落とし、中を開いた。
今度は鋏ではなく、かみそりの刃を使用したが、少女は全く戸惑わなかった。
そして、手で丁寧に眼球と脳を取り出す。
教諭の反応は「思ったよりもきれいに取れた」との事だった。
眼球と脳がつながっている様子が良くわかった。

授業も終盤になり後片付けが始まると、少女のもとに「心臓をくれ」と、男子の一人が言ってきた。
不審に思いながらも少女は、もう動かなくなった「彼」の心臓を彼に手渡した。
その男子生徒は、はしゃぎながら仲間のところに戻り、他の班の男子と心臓を見せ合っている。
少女は、男子達の行動に嫌悪感を覚えた。
彼に手渡す前に、「目の前で心臓を踏み潰してやればよかった」等と考えたが、表情には出さなかった。
すっかり分解された「彼」は授業終了後、乱雑にゴミ箱に捨てられた。

その男子生徒が家に帰ってしばらくすると、今年高校生になった姉が流行の厚底ブーツを履いて帰ってきた。
狭い玄関で、鋲が打ってあるゴツいブーツの存在感は大きい。
姉が廊下を歩いてくると、姉をからかうつもりで、今日の授業でGETしたフナの心臓を見せた。
表面が少し乾いた小さな心臓だった。
「なによ、それ?」
不機嫌そうな姉の質問だったが、彼は異様な色をした小豆粒ほどの物体の正体を明かすと、姉が気持ち悪がって逃げると思っていた。

「今日、フナの解剖したんだー」
「で、それ何?」
姉は表情を曇らせながら聞き返した。
「フナの心臓」
とイタズラっぽい笑いを浮かべながら彼は答えた。
姉の取った次の行動は予想外だった。

次の瞬間、姉は平手で彼の頬を殴った。
彼は衝撃で手から心臓を放した。
心臓は、フローリングの床に落ちた。
「なに気持ち悪いモン持ってきてんだよ!」
「何すんだよ!いきなり殴ることないだろ」
「殴られるだけのことしただろ」
「うるせぇな!そこまでして上げ底したいのかよ」
と、つい彼は、背の低い姉に対し厚底ブーツの件に触れてしまった。
「フン! ガキにはわかんないんだよ」
「チビは苦労するねぇ」
次の瞬間、姉はいきなり廊下に落ちた心臓を掴むと、玄関に持っていった。
「おい、待てよ!僕の心臓!どうすんだよ!」
「うるさい!」
姉がもう一度彼の頬を殴る。
姉の背が低いといっても小学生と高校生では力の差がはっきりしている。
彼は平手で頬を殴られ、怯んだ。

その隙に姉は、すばやくフナの心臓を玄関のタイルの上に置いた。
続いて姉は右足に例の厚底ブーツを履いて、ジッパーを半分近くまで上げる。
姉の意図を察した彼が叫んだ。
「あぁ、心臓が・・ねぇちゃん踏まないで!!」
彼の言葉に、姉は意地悪な笑いを浮かべて彼を見た後、心臓を踏み潰した。
そして踏みにじる・・・
心臓は、本来しなやかで弾力があり、簡単には千切れないもののはずだったが・・・姉の強烈な踏みにじりにより、フナの心臓が耐えられるよりも遥かに強力な擦りがかかった。
フナの心臓は姉のブーツの下で擦り千切られ、ただの小さな肉塊となった。
「あぁ・・・」
姉はブーツを脱ぐと、無言で彼の横を通り過ぎた。
彼は玄関に降り、ひざまずくようにしてフナの心臓を見詰めた。

姉は、自分の部屋に行くために階段を上がろうするときに、振り返って彼を見た。
彼はまだ玄関で心臓を見詰めていた。
姉は一瞬足を止め、姉は弁解するように
「あんたが悪いんだからね。そんなモン持ってくるから・・」
と言って階段を上がっていった。

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